快晴、晴れ渡った青空が、今の心境ではとても空しく見える程に青く広がっていた。上が青ければ、下も青い。仲間から借りた船に乗り、三人で──大佐が、かろうじて記憶にあったので、同行してもらっていた──彼が心当りがあるという場所まで来ていた。
「ここで、何かあったのかね?」
 大分昔の話なのだけれどね、と微かな記憶を逃すまいとしながら話しているのか、何処か違う所を見ている雰囲気でセルジュが顔を上げた。
「僕が落ちたのがこれより北側で、南のオパーサの浜で打ち上げられている。だからなにかあったとすれば、ここしかないんだ」
「何があったんだよ」
「うん」
 見上げて、陽の眩しさに目を細める。
「最近気付いたんだけど、これだけ、よく覚えているんだ。
 …昔、ここで溺れた記憶だけが。」
「……確か、10年前の?」
「そう。あれ、教えたっけ」
 しまった、とキッドは視線をそ知らぬ方向に向けて内心舌を出した。この話は確か、村の住人から聞いた話の一つだったのだ。セルジュから聞いた触りというのは、「昔溺れた事がある」というだけで、いつの等とは聞いていなかった。
 少しだけ首を傾げて、答える様子がなかったので、セルジュは視線を落として海を見る。慣れ親しんだ青が、地平線まで弛たっている。いつもは優しい、そんな記憶しかない海だった筈……だが今思い出そうとするのは、時折かいま見せる、その海の残酷な姿。
 身体が浮き上がらなくて、息をしようとする度に飲み込む塩辛い水、上へ上へと行こうとするのを邪魔して海の底へと沈めて行く水の力。動き辛い、手足。段々と遮られて行く光。空気はとうに口の中から漏れていた。ある訳の無い酸素を吸おうとする度に、肺に水が溜まって行く。
 苦しくて、ふと眼を開けた時に見えた空からの光。微かに海の中を照らす様が、綺麗で。苦しい事も忘れ一時見つめたのだ。
 なんて、なんて綺麗なのだと。
 次第に意識がぼやけ、身体を沈んで行くままにし、眼を閉じようとした時だった。
 す、とキッドを見る。
「…どうした」
「ううん。
 取り合えず、潜ってみるよ」
「大丈夫なのかね、セルジュ」
 多分、と苦笑を浮かべて、セルジュは大佐に言う。海に触れてまた意識を失いかけないという確証もない。
 けれどここで躊躇していても何も始らないのだ。彼もそれは判ってはいるだろう、しかし…尋ねずにはいられなかったのも、あるのだろう。
 ふ、と息をつき、大佐は徐に自分の背後に手をやり、船の底を探る。傾けた身体を戻した時には、手に縄を握っていた。
「潜りにくいかもしれないが、命綱代わりでもないと何があるか判らぬからな」
「だな。何かあったとしてもどこにいるのか判らないと意味ねぇし」
 胴に巻き、締め過ぎぬ程度縄を保たせて、解れぬ様きつく結ぶ。自分の身体に巻かれた縄を持ち上げ、セルジュは先ほどから浮かべている苦笑を更に苦くなったのか、笑う。
「…何かあったら意識がある内は縄を引っ張るから。反応が判ればいいんだけど…やってみないと判らないか。
 大佐、時計持っていない?」
「ああ、あるが」
 言い、彼は懐から懐中時計を取り出した。質素だがいいものの様だ、時を刻む音が、力強く鳴っている。
「五分たったら合図して。一度戻ってくるから。」
「判った。あまり潜り過ぎぬ様にな」
「うん」
 靴を脱いで素足になってから立ち上がり、頭に巻いていたバンダナを取る。上は既に黒いシャツ一枚で、出来るだけ水の制限を受けない様に軽装にしていた。
「セルジュ」
「ん?」
「これ、つけてけよ」
 言い、キッドは自分の胸の真中辺りを指差した。自分の方を見ると、其処には木でつくられたペンダントがあった。紐の方には手がかかっている。無意識に外そうとしていたのだ。
 紐にかけた手を離し、ふ、と息を吐く。吐き終わった後再度酸素を肺に詰め込むと、たん、と音を立たせて身体を空に浮かせた。そして前触れ無しに、海の中へと姿を消す。
 彼がいなくなった事でバランスが崩れた船がささやかに揺れる中、あっという間の出来事を目の前に二人は呆然とした。ひとつの間を起き、同時に身を乗り出し、彼が落ちた海を見つめる。二人の心配を他所にセルジュはすぐ其処から顔を出した。ゆらゆらと揺れる中、濡れた顔を手で拭き、眼を開けて上を見上げる。逆光で見えにくいのか眼を微かに細めた後、ふ、と彼に笑みが零れる。
「大丈夫、みたいだ。じゃあこれから潜ってみるから、合図宜しく」
「……一度声をかけてから潜って欲しかったな」
 大佐の安堵混じりの呆れた声に、セルジュは眼を瞬かせた。問いかけようとした所に、キッドが割り込んでくる。
「いい、いいから。さっさと潜ってこい」
「…う、うん」
 勢いをつけて身体を浮き上がらせ、その刹那に息を吸い込む。重力に従い落ちて行く身体を、そのまま中へ潜り込ませて行った。
 セルジュを見送った後、身体を引き戻し、眼があった二人は、ふ、と軽く息をついた。


 海の中は蒼く、透明で、深く。静かで耳鳴りが起きそうな気がした。全身で掴む事の出来ないその存在を感じながら、海面より奥へと降りる。色鮮やかな魚達が自分の事を特に気にした様子も無く、隣をするりと横切って行く。底では、藻や珊瑚が波に揺られる様になだらかに漂っていた。
 この辺は底がまばらで、五分では辿り着けないものの、もう少し時間をかければ辿り着きそうな所もあれば、何処迄降りればいいのか判らない程深いものもある。其処に関しては、光が届いていないようで視界の先は暗闇になっていた。降りれない事はないのだろうが、今回は奥迄潜る事が目的では無い、セルジュはある程度の所で降りるペースを緩めた。
 注意深く、海の中にいる事を全身で感じ取る。
 あの時の忙しない動悸や、血が体内から抜けて行くような感覚はなかった。いつもと同じ、ただなだらかに漂う、慣れ親しんだ海が此所に居た。自分にやさしくも厳しい、母なる海の姿。
 不意に、海上を見上げてみる。海面で揺れる陽の光が、まだ届いていた。しゃらしゃらと揺れるように動く光は彼を通り越し、それほど深く無い海の底をやさしく照らしていた。
 静けさの中に低く低く響く音が、少しずつ聞こえてくる。それは決して煩いものではなく、何故だか判らないが、自分を落ち着かせてくれるものだった。
 暖かい── 嗚呼、なんて暖かい。
 全てを投げ出してこの海と同化したくなる程の抱擁感。一度溺れかけた事があるにも関わらず、夕陽と違い海を嫌いにならなかったのはこの暖かさがある所為なのだろう。
 …いや、幼い頃溺れた時も、なんてやさしいのだろうと思った筈だ。
 苦しくて、必死に鈍い手足を動かし、恐怖から逃れようと必死になっていたあの時も、その光を見て、その存在を感じて、自分は、一切の行動をやめた。それに魅入ったのだ。自分は今、海の暖かな腕の中にいるのだと思ったのだ。
 ──母なる海。自分が生まれ育った村では、この海から産まれ、最期にはこの海に還るのだと言い伝えられている。それは自分の村に関わらず、この島全体の考え方でもあった。テルミナで水葬を行っているのがその証拠だ。海は自分達にとって身近な存在であり、恵みを与えてくれる存在でもあり、時に悪戯に牙を向けてくる存在。それでも尚、自分達は最期には、ここに還ると信じている。
 …?
 何か、感じた。
 それが視線であったか、自分の感情であったか、何かの動きであったか。本当に些細で、一瞬の出来事に、セルジュは周囲を見回した。
 海にあるべき生き物達以外には、何も無いし、何も居ない。
 ぱらぱらと鱗が陽に照らされ光る魚が、何事も無いと告げるかのごとく隣を通り過ぎて行った。
 気のせい、だったのだろうか。
 考え込んでいると、胴に巻き付けた縄に微かな力を感じた。時間がもう来たらしい、軽く合図を送って、セルジュは上を目指して泳ぎ始めた。

 彼が海の中へ隠れてから一分弱、海面より上でもまた、静けさが漂っていた。当の本人が居なくなれば、二人が口を開くきっかけはなくなるからだ。元々、仲間といってもセルジュに集った者達なのだ、仲間同士が必ず親しい間柄である事はない。
 なのだが、どうもキッドは落ち着かない気分でいた。
 ざらざらと小波が揺れ、船に体当たりした海水がぴしゃりと跳ね返って海に戻って行く。空には海鳥が群れを成し、大海とは言えないが人にしてみれば十分広い海の上を、悠々と渡って行った。その遥か上の陽は、昼を過ぎて数時間の所に座している。
 この静けさと暖かさであれば、いつものキッドならば睡魔に襲われて眠りにつける程、穏やかなものだった。だが、今の彼女を見てみると、緊張しているのか、じっとしてられないのか、強張った面持ちで海を見つめていた。
 会話が突然切れた所為なのだろうか、あながちそれも間違いでは無い気がしたが、今迄この様に隣の人物と二人きりという事になるとは思いもしなかったのだ。
 海の中に潜った半ばもう自分の伴侶とも言える存在が気になるのは当たり前だが、それを振り切ろうとし、不意に隣の存在に意識が向いたのは逆効果だった。
 気付かれぬ様、視線だけを隣へ持って行く。するすると降りていく縄を軽く持ったまま目の前に座る壮年者、蛇骨大佐は、こちらの視線に気付かず、懐中時計をじっと見つめていた。
 彼は、自分がラディウスの孤島で意識が浮上する前迄は、敵だった。浮上した後は、仲間だった。自分が知らないその狭間で、何があったのかは知らないが……セルジュが元敵であった藤色の髪を持つ青年と、大佐に懐いている事は一目で判った。
 その手に命を握りつぶされそうになった事を、忘れた訳ではあるまいに。彼等を前にすると、破顔一笑して迎え入れた。
 グレンと共に居る時とは少し違ったセルジュの態度。
 何だろう、と思う。
 自分が彼と居なかった時期は数カ月ではあったが、人と此所迄親しくなるなんてこんな期間では無理な話な筈だ。
 だとすれば、何か、きっかけがあったということだ。
 「セルジュ」というものの、奥底を揺らがせる何かが。彼等が其処に触れる、きっかけが。
 と、気付かず熱心に視線を送ってしまっていたらしい、キッドの視線を身に感じた大佐は、徐に顔を上げて彼女を見た。彼女としては気付かれるとは思っていなかったらしく、ぎょっと身体を強張らせ、あ、と呻きにも似た声を上げた。咄嗟に言葉が思い付かず、何度か瞬きをくり返し、目を反らして、言うつもりも無かった事を口にする。
「謝りは───しないからな」
「…?何をだ」
「あんたの娘に、剣を向けた事」
 比較的直ぐに思い出したらしい、ああ、と理解の声を上げて彼は苦笑した。
 その苦笑に、キッドは訝し気に大佐を見た。苦笑とは言え大佐の笑顔が自分に向けられたのは、初めてだった。
「何で其処で笑う?」
 何でも何も、と肩を竦め、大佐は時折時計を見ながら彼女の為に言葉を紡ぐ。
「もう気にしてはおらぬ。あの者もお前に殺意は感じなかったと言っておったし、何よりその後の、あの者が受けるはずだったヤマネコの攻撃から庇ってくれたではないか」
「…別に、条件反射なだけだ」
「それでも助けてくれた事にかわりはない」
 再度、目を瞬く。それから暫く声が出ず、ぽかんと惚けた面持ちのまま、キッドは大佐を見ていた。
 そうであったとは言え、自分は大陸では名の知れた大盗賊だ。相手も十分承知しているのは初対面の時判っている。それが、今目の前の人物が統治する島に居ると言うのに、この壮年は捕まえるどころか感謝の意を唱えて来た。違うだろうと訂正したくなるのを、辛うじて堪えた。自分から口出ししても意味が無いし、逆に面倒な事になる。
 どうにもこうにも誰かに似ていると思ったら、今海面より下にいる、夏空の瞳を持つ少年を思い出し、毒されたかと呆れ半分思った。
 半分は──撤回してしまいたいのだが、一瞬だけ、彼の懐の広さに、感心してしまった。
 ──自分も十分、毒されている。
 少し前の自分だったら、莫迦がいると思ってそれだけだっただろう。お人好しはいつかそいつ自身が泣きを見るだけだと思っていたし、そんな事をされても嬉しいと思った事がなかった。生きるのに困っていた時は、良いカモだとも思っていたのだから。
 なのに気付けばこの体たらく。嫌っていたお人好しが意外と心地よいものだと思い始めてから……随分と浸かっていたらしい。
 情けないと、昔だったら思っただろうに。そう思わない自分が、此所に居る。
 これ以上答えても話がこじれて行くだけだろう、彼女は言葉を無くし、押し黙った。
「…そうだったな、ほんの前迄は、その様な間柄だったか」
 懐かしそうに呟き、苦笑いを隠せないでいる。今頃気付いたのかと言うよりも、今迄忘れていたのかと思ったキッドは、その色を出さぬ様、適当に、曖昧に相槌を打っておいた。
「御主に怪我をさせる様な事をしなくて良かったと、正直ほっとしている。」
「…は?」
 突然の言葉は、何処かずれている気がした。
「もし命の危険があるような怪我でもさせていたら、恐らく一生セルジュに恨まれるからな。
 私は今ここにいなかったかもしれない…。」
「待てよ、あいつはそんなに根に持つタイプじゃないだろう?
 どうしてそんな所に発展するんだ」
 眼を瞬き、相手をじっと見たのは、今度は大佐だった。刹那に響く笑い声に、彼女は驚きを隠せなかった。
 目許を押さえて肩を震わせ、笑いが止まらない様子に次第に腹が立ってくる。容赦なく睨み付けキッドは何なんだ、と怒鳴り付けた。
「いや、すまない……おっと、時間だな」
 謝罪の言葉を呟きつつ、時計を覗き見時間を知った彼は、降りていく動きを止めていた縄を数度引いた。二度程縄が海の中へ潜り、そこから動きが無い所を見ると合図だったらしい。セルジュが上へ戻ってくる。
 話を反らされた気がする。するが、セルジュが戻ってくるので、更に話を突っ込む事は躊躇われた。自分達の事を彼の前で話されるのは少々恥ずかしい所があるというのと、彼の前でその話をしたらどうなるか、少々心配だったのだ。
 さほど時間が立たない内に海の中で色が揺らめいた。一部が盛り上がり、裂けた其処に雫を散らせながら彼の姿が現れる。
「大丈夫か」
「うん、今の所は」
 頭上から顔に流れ落ちる雫を両手で拭い、前髪をかきあげる。見えた彼の面持ちからは、笑みが零れた。
「一回上がれよ、暫く休んだらどうだ?」
「平気。もう少し長く潜ってられるし、今は海も穏やかだから。
 次上がって来た時にそうする」
「無理をするなよ」
「うん」
 深く息を吸い、再度彼は海の中へ潜り込んで行った。先ほど姿を現してから、ものの数十秒にしか満たなかった。
 本当に大丈夫なのだろうか。
 一抹の不安を覚えながらも、今回は彼を信用するしかない。自分はあまり長く息を止められる自信がないし、泳ぎも島の住人達程達者ではない。ここで待つしかなかった。
「セルジュは、御主の事になると人が変わる」
 またも突然に言われた言葉は、一瞬耳から耳へ通り過ぎて、戻って来たら頭の中で暴れ始めた。
「……は…?」
「今とてそうだ。御主が戻って来てからは、随分と落ち着きを取り戻した。
 それまでは、酷かったのだよ。…あの一瞬を見る迄、私も気付きはしなかったのだが」
 そう呟いた彼の瞳が、何気なく色を落とすのを見、彼女は、す、と息を殺した。彼女の様子に気付いたのか、彼は渋い色の混じった笑みを浮かべ、肩をすくませる。
「大した、事ではないのだよ、話としては。ただ、…ただ、彼が私の目の前で涙を見せただけの事なのだ。」
「あいつが、泣いたってことか?」
「そうなるな、だが、その行為自体が、私にとっては驚きでしかなかったのだ。以前カーシュにとある事で殴られた事があったが、その時でさえ、彼は私達の前で泣く事はなかったのに。
 …少し疲れていたのだろう、それにお主の夢を見た事で、不安定になってしまったのだな」
「……俺の夢ぇ?」
 場に似合わぬ、素頓狂な声を上げてしまう。あらかさまに嫌そうな表情で声を上げたのに、彼は数度瞬きをくり返し、薄く笑った。
「砦の、夢を見るそうだ」
 声は、出なかった。
 ───砦、古龍の砦。
 自分の覚えていない、記憶。
「時折、それも…赤き月が良く映える、夜には。夢にあらわれる事が多い様だった」
 目の前の人物も、足元も、手も、赤く、赤く、鮮やかに赤く。
 それに対する感情が夢から目覚めた後も纏わりついて、逃れられず自分の目の前で声を押し殺すしかなかった少年。その姿を見てからというもの、彼が彼女の事を想っている時や、落ち着いていない時というものが判るようになった。強いと思っていた、その影にずっと隠れていた、酷く脆い部分が見えるようになった。年の差にしてみれば祖父と孫といっても良い程の差もあったか、護るべき者だと、痛感したのだが。
 クロノポリスと呼ばれる現代の文明では考えられない程の高度文明を抱えた所から帰って来たセルジュの様子は一変していた。
「御主がセルジュの元に戻って来てからは、夢等ひとつも見ていない様だ。
 表情にも落ち着きがある、…ほっとしてしまったよ。
 やっと、彼を被っていた感情が消えたのだと」
 決して完全ではないのだろうけど。
 完全というものなど、あり得る筈が無い。
 だから、いいのだろう。
 波に揺られて、船が揺れる。言葉がなくなった二人の間に、不思議な沈黙が落ちて行く。
 まただ。
 また、と、キッドは視線を海に移しながら、その奥にいる筈の少年の姿を思い浮かべる。
 自分の知らない記憶、自分の知らない出来事、……自分の知らない、少年の一面、話でしか聞かない、彼の弱い部分。自分の前では決して彼はその姿を曝け出す事が無い。身体がどんなに不調であろうと、感情が揺れていても、彼は自分の前に来ると、何もかも押し殺した様な笑顔を見せる。何時からかそれに不満を覚えていた。ごく一部の周囲の者に見せて、自分には見せないその一面を、見せて欲しいと思った。
 …護りたいと、思ったのかは、判らないが。しかしそんな感情もあって、今回セルジュが記憶を徐々に無くして行った時の、抱き締めた時に返された腕が、微かにぎこちなく、強い様で弱い力が、それは彼の弱さの一面の現れだった事に気付いた時、微かながら気持ちが高ぶった。ほんの少しだけれど、彼を知る事が出来たと。
 それでもまだ判らない部分は多い。意地なのか、無意識なのか、彼にしか判らないが、いつか全てを取り払い、自分に見せてくれる事はあるのだろうかと、ふと思う。
「…嫌だ」
 つい、口に出ていた。
「居るだけでいいなんて、あいつは良いのかもしれないが、俺は嫌だ。そんな存在になるなんて、絶対に嫌だ。
 あいつの後ろになんか居ない、俺はずっとあいつの前に居る、前じゃなかったら、隣に居る。」
 ──対等でありたい、と。
 切に、思った。
 会話は完全に繋がっていない、のでキッドが口ずさんだ最初の言葉に、大佐は一瞬理解しかねていたが、次第に何か彼女が思案していたのだろうと思い至る。そして、キッドの言葉に、口元だけで笑う。
「…御主らしい、のだろうな、その言葉は。」
「おうよ、天下のラジカル・ドリーマーズのキッド様は、後ろに護られてる存在じゃねぇんだ、覚えとけ」
 何処か開き直った様子で胸を張り、冷えた空の色の瞳をきっと大佐に向けて宣言すると、何処か安堵の色の篭った笑顔で、大佐は「是」と呟いた。

 時間が少し過ぎ、セルジュは船へと戻り一息ついている所だった。二人の心配を他所に、現在のセルジュは変わらず元気そうだ。元々海と共にある生活をしてきたからか、久方に泳ぐのが楽しいらしい。流石にそれには、大佐は呆れ顔になり、キッドは少し苛立たし気に「楽天家め」と刺のある言葉を言った。
「で、何か成果はあったか?」
「んー…今の所はないと思う。少し、違和感があった時があったけど、それから何もないし」
 頭上から額へ、それから頬を伝って行く雫をタオルで拭い、首の後ろにかける。
「明日のお前がどうなってるか判らねぇし……こればかりは何ともなんねぇな…」
 前屈みの状態で腕を組み、軽く溜息をつくキッドに、セルジュは苦笑を浮かべる。
 このまま時が経てば、その苦味の入った笑みすら見れなくなってしまうのかもしれない、それ以前の問題で自分が誰だかも判らなくなってしまうのかもしれない。
 彼にとっても、自分にとっても、良い事ではない。なのに自分は何も出来ない。まるで拷問の様な時を過ごすしかないだけだった。
「運に任せるしかないのだろうな。どうなろうとも私達に出来る事はセルジュの手助けをする事だけだ」
「判ってはいるんだけどよ……ほんとに、何も出来ねぇのかよ、俺らは。このままじっと船の上でこいつの変化を待つだけなのかよ」
 前屈みの状態で頭を擡げて、唸るように呟く彼女に答えるのは大佐。
「焦るでない。セルジュにうつったらどうする」
「こいつにうつるもんか。海に入るのが楽しいとか抜かす莫迦がどうやって焦るんだよ」
「他の不安材料は出さぬ方が懸命だろう。自分の言動で彼の身に何か起こったらどうする」
「…なんだよ、説教か」
「お主がそう思うならそうなんだろうな」
「あんたはどう思って言ってんだよ」
「助言かね」
「はぁ?助言つー言葉か、これは」
 く、と喉の奥から息がもれる音がし、二人は並べ立てていた言葉を一時止めた。ひとつ間を空けて、くつくつと笑いを堪えるセルジュを見る。
「…なんだよ」
 ご免、と言いつつも、言葉が成っていない。口元を掌で覆い肩を震わせる彼に、視線が集中する。
 暫く堪えたまま笑った後、ゆっくりと、深呼吸をする。
「……何かあったのか知らないけど、仲良くなったみたいだね。
 会話のテンポが凄く、良くて、ごめ、おか…っ」
 顔を上げて弁解するも、次第に口元が歪んで行き、最後にはまた笑い出した。腹を抱えて笑い出すセルジュに大佐は最初呆気に取られるも、口の端を上げ、キッドを見やる。彼女はというとどうやら言われた事に不服があるらしい、眉に深く皺を寄せて、セルジュを睨み付けている。今にも怒鳴り出しそうだと見ていたら。
「〜〜〜ああ!?こいつの仲が良いだって? じょーだんじゃないッ、何で俺がこいつの仲良くしなきゃならねーんだよ、ていうかさっきのが仲良いだって?お前の眼は何みてんだよ!」
「はは、ご免、でもすごくキッド気軽に言ってたから」
「こいつに言う事なんざ気使う事なんかないだろ!」
「と言う事は、今迄気を使っていたと言う事かね」
「気を使っていたというか、なんか気張っちゃってた所があった気がする」
「…ほぉ」
「てめぇら、俺無視かよ! 勝手に会話を続けるな!」
 勢い余った拍子に立ち上がってしまい船が揺れて落ちかけた彼女を、慌てて二人が抱えて防ぎ、無事に座らせた途端二人が笑い出したのだが、彼女は一言も叫ぶ事なくぎりぎりと胸の内にある衝動を押え付けていた。

 それから数分、再びセルジュは海の中へと潜り込んで行き、海上では二人きりとなっていた。キッドと言えば先程笑われた事をまだ気にしているらしく、不機嫌そうな表情でぶつぶつと文句を呟いている。
 片手にゆるゆると降りていく縄を、片手にちきちきと針が回る時計を持ち、眺めていた蛇骨大佐はちらりと彼女の方に視線をやり、目尻が釣り上がっている様子を見、息をつく。
「気を使っているな」
「あぁ!?だからてめぇなんかに気使っちゃいねぇってるだろ!」
 少しの間をおかず、キッドが目線を突き刺すように向ける。しかし大佐はそれに否と答えた。
「…私ではない、セルジュにだ」
「は… ……?」
「もしや、今自分がしている事に気がついてないかね。お主、元々其処迄怒りを言葉や勢いであらわす方ではなかろう」
 彼を、見る。
「お主は怒っていても、何処かで冷静な部分が常にある。それに則されて、あまり感情的なものよりも冷徹な言葉を使うのではないだろうかと思ったが、違ったかね」
「……───」
 違う、とは、言えなかった。自分としては怒鳴る事もあったし、感情に任せて行動する事もあった。けれど、冷静な部分がなかった……それだけは、否定できなかった。その部分がなければ自分は生きていないだろうと言う程、冷静というものは重要なものだった。何があろうとも、常に何処か冷静な部分を置き、対処出来るように、生きてく内に自然と身についた癖。
 それが。
「…他に気を回し過ぎた、という所かね」
「う、……るせぇよ」
 怒鳴るにも怒鳴れずに、頭を抱えてキッドは唸り声を上げた。
 ──あいつの事になると、冷静さが消える。取り乱してしまう。思っても見ない事を考えてしまう。思ってしまう。
 調子が狂う、彼が万全でない今は、尚更だった。
 少しずつ腹の底から、何かがふつふつと言い始めてくる。赤黒いマグマの様なそれは、腹の中心から上へ、胸下から中心、上へとじわじわと沸き上がってくる。その感覚が、非常に自分を苛々させた。冷静な部分が、見つからない。
 喉元迄来た時には既に限界だった。
「…が…い…」
 押し殺した声が、聞こえて来て大佐は彼女を見る。
 頭を抱えてわなわなと身体を震わせていた彼女が、ぱっと顔を上げて、何処へと叫ぶ。
「っめぇが悪ぃんだ! さっさと記憶取り戻して来いッ、莫迦セルジュ!!!」


 ぱしぱしと眼を瞬かせた。
 何かが聞こえたような、聞こえてないような。ぼそぼそとしたごく小さな音が聞こえる以外他には何もなかった、今の所。
 幻聴?
 漂いながら、セルジュは首を傾げた。いくら考えても埒があかないので、気を取り直して海に感覚を向ける。
 焦ってない訳では、なかった。どちらかと言うと焦っているだろう、けれど、焦っていたところで何も出来る事はないし、逆に何かを見落としてしまう事もある。数日経てば自分の中から記憶は殆どなくなっているだろうと思っている彼としては、何としてでも見つけなければならなかった。
 だから敢えて自分を落ち着かせる。
 海に、浸る。
 恐怖はない、ただただ安堵がある、この蒼い空間の中。漂い、蒼の中にある筈のものを探す。何処にあるのか検討もつかないがとにかく見つけるしかない。自分はここで何かあった筈なのだから。
 海上からの陽の光が、相変わらず海の中へと入り込んで来ている。さらさらと海上で漂い、中へ潜り込み、自分をも照らす。
 ──暖かい。そして、優しい。
 こんな風に海の中へ留まる時間が長いのは、もしかしたら初めてだったかもしれない。何かをしながらでは、もちろん今以上に居た事はあるが、何もせず、ただなだらかに揺られているのは。だから、溶け込みたいという気持になったのは、初めてだった気がする。
 ほんの少しだけの、思い。
 ──記憶が戻らなければ、このまま、海に…──
『…ひとつになんかなれないよ』
 それは、声。
『暖かくもないし、優しくもない。
 冷たくて、残酷で、何にも容赦無い。
 ………海は母なる存在なんかじゃない』
 右腕に何かが滑り込んでくる。見れば、それは幼い腕。自分の右腕に回して、しかと抱きとめている。
 ゆうるりと、首が、振り向こうとする。動作が余りにも鈍いのは、今の状況に信じ難い事があったから。すぐにでも振り向きたいと思う反面、身体が、躊躇していた。
 それは消して響くはずのない音、人の声は、海の中ではまともな音を発せない。なのに今聞こえて来たのは、確かに人の声。
 その声が、あまりにも、あまりにも聞き覚えのある………
『それでも──君はここに留まりたい?』
 視界の端に、ふわりと漂う、夏の空の青。
 この海の色を宿した瞳を細めて、あどけない笑顔で呟かれた言葉の先に、
『………どちらにしても戻る事はもう許さない』
 ──闇が、混じった。


「…?」
 止まっていた縄の動きが再び動き始めた。それだけなら何処かに移動しているのだろうと思う。それだけならば。だが少し、妙だった。
 きゅるきゅると縄が落ちて行く。そのペースが、異様だった。
 隣を見れば彼女も気付いていたらしい、訝し気な表情で縄の様子を見つめている。
 暫く様子を見る、縄は相変わらず海へと落ちて行く。どうすればいいだろうかと思案したものの、何かが胸の内に過り、無意識の内に放っておいた縄を握り、数度引っ張る。
 彼の返す反応を待つ。しかし反応は返らず、きゅるきゅると落ちて行くのが続く。
 …悪寒。
 片手に縄を括り付け、身体を後ろに傾ける。その一定方向に落ちていただけの縄を逆方向に引っ張り上げようとし、初めはその動きに従っていたが、やがて反発にかかる。ぴんと張られた縄は、それでも少しずつ、海に潜り込んで行く。慌ててキッドも縄を引き戻そうと手を添えるが、結果はあまり変わらない。船の手摺に縄が擦り、じりじりと音をたてる。
「なんて、力だ……人間の力かよ」
「キッド、行けるか」
「?」
 自身も海に引きずり込まれぬ様に、片足を船の縁にかけて必死に耐えつつ、大佐はキッドに問いかける。
「私はこの状態だ、縄もこのままだと何時切れるかも判らぬ。今動けるのはお主だけだ、行けるか」
「……行くっきゃねぇだろ!」
 縄から手を放し、手袋を取り、赤い上着を脱ぎさる。立ち上がった時にぐらりと船が揺れたが、構っている余裕はなかった。
「縄を伝って行け、セルジュを、頼む」
 軽い返答を返して、キッドは海へと飛び込んだ。





 手。
 手。
 手。
 体中に巻き付く、誰とも知れない手。何処から出ているのかすら判らない。年齢も性別も様々なのだろうことは身体に触れている所で何となく理解出来たが、視界に見えるだけでも手だけが自分の身体を掴んでいて、身体が見当たらない。
 動けない。首から足迄、動かせる所は全て手の枷によって縛られていた。身動きひとつする事も適わず、ずるずると海の中へ、陽の当たらない闇の中へ、分銅をぶら下げているのかと思う程一定の速度で引きずり込まれて行く。
『寂しいんだ、ここは』
 右腕に幼い両腕を絡めたままの、少年。
『何もないんだ、何もなかったから、いろいろ集めてみたけど、全然足りない、何もなくて、寂しくて、冷たくて、ずっと苦しいんだ。』
 いろいろとはこの「手」の事なのだろうか。そうなると……同じくこの中に彷徨うものを呼んだか、己で引きずり込んだか、辺りが薄暗くなっていくにつれ水圧が増していくのを感じながら思いが過る。
『どうしてこんなに冷たいんだろう。暖かいと思ってた、優しいと思ってた。
 全然、そうじゃなかった。ひとりになってた、知っている人、誰も居なかった』
 十年前、海に落ちて、何かに引き摺られ、奥底へと沈んだ自分の身体。
 「自分」は今こうして生身の肉体を持って生きている、そのまま溺れ死ぬ事なく、助けられたから。だが、肉体を持たず、海に捕われたままのこの少年は…幼い頃の自分は、ここで溺れ死に、……恐らく身体は海の藻屑となった。あの墓標の下は、きっと何も埋まって───
 …墓標?
 おかしな事に気付いた、「自分」は今生きている、だからここで息苦しいと思っている。…ならば、腕に巻き付く腕の持ち主は?少年は…ANOTHERの、自分が死んだ世界の、住人ではなかったか。
 この海は、HOMEの、自分が生きていた世界の海なのに。時空移転した覚えはない。感覚もない。だからまだHOMEである筈なのに。
 ならば彼は、一体──
『…ボクは、君を知っている』
 腕から離れた手がセルジュの頬に触れる。両の手が触れると、目の前に幼い頃の自分の姿があらわれる。確実に記憶している訳ではないが、この姿は間違いなく自分だった。
『君は生きていた。ここより上の世界で、命を持って、ずっと生きていた。
 …不公平じゃない?どうしてボクはここで冷たいと思っているのに、君は暖かいと思っているの。
 酷いよ…ボクにないものを、君は持っている。』
 だからと、呟かれた後に現れた笑顔はぞっと身体の底を凍らせる。
 それは最早人の笑顔ではなく。
『君も死ねばいい』
 がくんと、身体が引っ張られた。引っ張られたと言うよりは、身体の落下が止まったと言った方が正しいだろう。逆方向の力によって。同時に胴と足に痛みが走る。縄が、何時の間にか絡まって片足にも巻き付いていたようだ。
『…無駄な足掻きを』
 言うや否や、何処からともなく現れた手が、上へ伸びる縄にしがみ付くように集う。上への力と下への力が均衡し、それでも少しずつ、かくり、かくりと下へ落ちて行く。
『このまま上でがんばってる人も引っ張って来れたらいいのになあ…少しは寂しくなくなるかもしれない、ボクも、君も。』
 さぁ、と胸の中に冷たいものが伝う。見越した様に少年が振り向き、笑う。
 …否、歪んだと言った方が正しいかもしれない。
『海は、冷たい』
 あり得ない口の歪み、目尻は眼で判る程釣り上がり、顔全体の様子が不気味に歪んで行く。
 声が、変色したかの様に、低く、低く。
『暗くて、静かで、ボクを独りにするのも気にしない、残酷なんだよ。還る事なんか、出来ないんだ』
 最終的にはその声は、誰だか判らぬ、男の声になった。
 怖い。
 自分だった筈の少年が、自分だと思わなくなる程、歪んでしまった。その様を目の前で見せつけられて、恐怖を覚えない筈がない。
『でも、これからは君も一緒だね。 …さぁ』
 それ以前の問題に、目の前の表情に感情がない。笑っているように見えるが、何処か憎しみや哀しみも混じった、そんな表情に見えるのだが。
 ない、その中にある筈のものが、全く無い。
 それが酷く怖かった。
『さっさと死ね!』
 身体を押え付けていた手と言う手が突如信じ難い程の力で巻き付き、骨が軋んだ。耐えられず呻き声を上げるように、辛うじて残っていた空気が体内から零れて行く。代わりに肺へ流れ込んで来たのは海水、あまりの苦しさに、ないものを取り込もうとするものの、入り込んでくるのは海水のみ。
 もがくにも身体が押さえ付けられたまま、力は段々と強くなり、ぎしぎしと骨が鳴って痛みが走る。治ったばかりの横腹の傷痕が再び開いてしまいそうだった。
 身体の中が海水で満たされた気がする。痛みが、苦しみが、ほんの少しぼやけた。
 意識が……薄れて行く。
 片隅で狂笑が聞こえた、愉快そうな声が、遠くもなく近くもなく、確実に自分に聞こえて、それもまた段々と遠ざかり…


 目の前に広がる光。
 伸ばされる、手。
 見なれた手、片方は素手の、少し華奢な指先を持つ手。
 そしてもう片方は、焦茶の革手袋を填めた───













 海の底で光が走り、直後下へおりる縄の力が消えた。一瞬呆然としたが、直ぐさま蛇骨大佐は縄を引き寄せ始める。はじめより少し重い気がしたが、彼女も加算されている割には軽かったので気にならなかった。次第にその重さもなくなり、上へ上るスピードが早まる。
 海面を掻き分けて、二人の姿が垣間見える。
「無事か!」
「大分飲んじまってるみたいなんだ、俺は平気だからまずセルジュを」
 意識はまだあるのか手摺にかかっている手を掴み、船の上へと移動させる。身体が船の上に乗るやセルジュは反対側の手摺に身を乗り出し、飲み込んでいた海水を吐き出す。荒い呼吸を繰り返し、肺に酸素を送っている姿を見、軽く背を叩き、摩ってやる。
 気付けば、彼の体中に妙な痕が残っていた。不審に思うも、今はまだ答えられないだろうと、口を閉ざす。
 後に落ち着いたか、手で大丈夫だと示したので彼をそのままにし、まだ海に浮かんでいるキッドを引き上げにかかる。ざらざらと海水が纏わりついて動きにくそうだったが、先ほどよりは楽に上がり、彼女は荷を背にし、仰向けになって倒れた。
 ゆらゆらと、波に流れて船が揺れる。
 荒い呼吸が、少しずつ収まって行き、最後には波の音しか聞こえなくなった。
 二人が動かないのを確認して、大佐がふ、と息をついた。足元においてあったタオルと水筒を持ち出し、タオルは二人に、コップに出した水をセルジュに渡す。
「…どうなったか、聞いても良いのかな」
「の前に、頼む、叫ばせてくれ」
 ぼそぼそとキッドが呟く、何事を叫ぶのかと見れば、わなわなと身体が震えてくるのが見える。
 深く息を吸い込み彼女は口を開く。
「…〜〜〜 〜〜〜〜っ気ッ色悪ぃんだよ! 莫ッ迦野郎ーーッ!!!」
 大佐にとっては訳の判らない叫び声に、セルジュを見やるも、彼もただ苦い笑みを口に浮かべているだけだった。

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