壮大な星の夢物語は終わり、
また新しい旅が始まる。
永遠に続く旅路の果てには…





[夢の果ての願]




開口ひとつめはこうだった。
「…泥棒、なのかな? 何も無いところに入っても何もないんだけど」
 青い瞳の青年が…かなり見知った奴だったのに、判っていたのに、それを望んでいた筈なのにその言葉を言われると正直辛かった。
目の前の男は、紛れもなく俺が…
 はっと我に返り、俺は精一杯の誤魔化し言葉を言った。
「泥棒が家に入り込んで悪いか!それに俺は泥棒じゃねえ、盗賊だ!」
 言い終えて自分のやっている事と言っている事が違う事に気付き、しまった、と冷や汗が心の中に現われる。笑うあいつに俺の心を見透かされた様な気がして、目の前のグランドリームを改めて見、焦りもしたのだが…
「じゃあ、金目のモノを盗んで行かないとね」
 そう、簡単に武器を下げてあいつは背を向けた。
…あれ?
 いまいち、自分の立場が判らなくなる。
混乱したまま見失うとやばいからと追いかける。どうやらあいつは自分の部屋に向かっているみたいだが…あいつの部屋に金目のものなんてあったか?
というか、俺を放っておくか?普通…
「な、なあ…お前、馬鹿か?盗賊をほったらかしにしていいのか?」
「ほったらかしにしてる気は無いよ。現に、付いて来てるじゃないか?」
はいぃ?
 目が点になる思いだった。それを見てあいつは可笑しそうに笑う。
……しょうがねーじゃねーか! お前訳わかんねぇよ!
 前だってそうだ、俺が何をしようとも何を言おうとも余程の事がない限り何も言わなかった……お前は。強引に付いて行く事も俺に振り回される事も何もかも受け止めてしまう奴、…なんて、奴。
初めは幼い頃の記憶でしかなかった。だけどその内に、青く深い空と海を背景に佇む姿が目から離れなくなって…
 そう物思いに耽っていたら、あいつは部屋で何かを取り出し、俺の手の中に渡した。
「…!?」
「持って行って」
 訳も判らず持っていたらその言葉。…ためらいながらその箱を開ける…
中には、俺の知識の中では最高級に入る紅の宝石が数個ちりばめれた指輪が入っている。
…………な、何ぃい!?
 何でこれがこんな所に…いやお前がこんなもの…いやいやこんなものどうやって買って…いやいやいやなんで俺に!?
言いたい言葉が、あまりにも唐突な出来事に対応できず、俺の口はぱくぱくと開いているだけ。
やっと、少しだけ声が出る。
「………こ、これって…すげー高価な宝石じゃ…」
「うん、採取するのがすごく難しい古龍の塔近くの発掘物。
 これひとつで10年はこの村の人達何もしないで生きてけるって位の価値」
…ばっっかかお前!何でこんなもん…!!
 あまりにもあっさりと言ってしまう事に血が上り、大声を出しかける…
やばい、と思った時には既に出ていた後。となりから光が、下から誰かの声が聞こえて来た…この時間が終わりに近付いた事を意味するのが判り、俺は半ば呆然とした。
「窓から出て東に行くと柵が見える。
 そこを通り過ぎるとテルミナ行きの道が見えるから…早く逃げて」
 どうするかと考えていた時にあいつが俺をその窓の方へ誘導させる。待て、逃げる前に…俺は振り返った。
「何を…「何故俺を助ける? 何故…逃がす?これを渡す…?」
意味不明な行動、言動。でも、本来なら意味不明なんかじゃなかった。だから……もしかしたら………
あいつは一瞬だけ黙り、微笑んで言った。
「……君は一生懸命に生きようとしているんだね。」
…………すとん、と何かが落ちた。
「一生懸命に生きているからこそこんな事だってしてるんだし、そんな性格をしているんだね。」
 懐かしいその声の響き、発音の仕方、声の口調……最初は反発したが、後にはその言葉を言われるのが嬉しかった。その声で自分の名が呼ばれるのが……嬉しかった…
……ああ…お前は……
 忘れているとしても、もう良い。そうならば、やり直せばいい。取り戻す自信等有り余る。
服を掴んで、あいつを引き寄せてみる。以前の癖の通り、絶対にそのまま俺にぶつかってはきはしない。何かでその反動を無くす……
 忘れられなかったあの感触を一時だけでもと、俺はあいつに触れた。
微かな余韻を残して離れる動作、それが大好きで…忘れられないから、俺は言った。
「次はこれに似合う様になって来てやる。
 お前を落してやるからな、待ってろよ?
 ……じゃあなセルジュ……」
とん…
 あいつの胸を押して俺は又外の暗闇へと紛れて行った。音を出さぬ様注意しながら草むらを掻き分け、柵へとたどり着き、そこから道へと躍り出る。
 そのまま俺は走った。無我夢中で走る。
微かながらに覚えている、思い出してから会いたくて仕方なくてついこの島へ来てしまい、少しだけでもと夜に忍び込んでしまったが…覚えている。それだけで良い。本来なら、あの言葉さえも出なかった筈なのだろうから。
ふと走りをやめて、俺は空を見上げた。深い暗闇の中…あの青い、優しい笑顔が浮かぶ。
「ばっかやろ……忘れろって言っただろ?  …………セルジュ………」



旅路の果てには新たな夢がある。
その星の夢は、新しい夢を紡ぎ始める。

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