ぎゃん、と甲高い声が響いた。 「ウィーッ!」 蹴り飛ばされた少女へ蹌踉けながら近寄り、背に庇う様に彼は少女とは反対側を向く。大人気なく怒りを露にしながら、男が二人の目の前に立っていた。 「退けよ」 「いやだ」 「退けッつってんだろガキッ。てめぇもぼこぼこにされたいのかっ」 「やめて。ウィーを殴らないで!」 震える声だが、負けじと男に少年が叫ぶ。少女は彼の背後で咳き込みながら、それでも男を睨み上げていた。それがどうにも、男には気に入らなかった様だ。は、と声を上げる。 「…おい、いい加減にしろよ」 男の後ろで事の様子を見ていた別の男が言うも、彼はそれを無視した。 腰に手をやり、何かを掴み上げてくるりと手の中で回転させる。 鈍い光を見せたそれを見──少年の面持ちが瞬く間に恐怖に染まった。 同時に男の後ろから、複数の声が男の名らしきものを吐き出す。 「何をする気だ!」 「殺さねーって。ただこう、少しでも逆らったら…」 口の片端を釣り上げて、男は少年の頬にその光──短剣の刃を寄せる。 ぷつり、と皮膚を裂く音が聞こえた気がした。 少年の身体が竦み、刃が頬に赤い線を引く間、眼をかたく閉じていた。少女が声を出せぬまま、叫んでいた様だった。つらりと、赤い線から赤の雫がひとつふたつ、頬を伝って行く。 刃を頬から離し、男が嘲笑を浮かべて笑う。 「こうなるって事を、見本にな」 くつくつと笑う。かたかたと震える少年を見、可笑しそうに眺め回す。短剣を少年の前でふらふらと揺らし、なにかを思案している様だった。そして、ぴたりと鎖骨の前で動きを止める。 「…それとももっと教えておいた方がいいか。 誰にも言えない様な所に教え込むのも、面白いよなあ」 くつくつ、くつくつと、冷笑が空間に広がる。 刃を持たない手が、そろりと少年を掴もうとした、その時。 少年の背後で縮こまっていた少女がその手をはね除け、少年にしがみ付き、叫び出す。 「やめて、やめて。レスト兄に酷い事しないで!」 耳もとでぎゃんぎゃんと騒ぐ少女、しかし少年はその声が聞こえていない様に、ただじっと、目の前を見ていた。 その声よりも、目の前の状況に硬直していた。 見境がなくなる、その境界にある表情──それが男に現れていたのだ。 やばい。 殺されると思いつつも、身体は男から溢れる怒りに怯え、何処も動かない。 短剣が振り上がる。 どちらに落ちるのか判らないが、振り下ろされたら最後には確実に二人とも死ぬだろう。 いけない、いけない。 妹を殺してはいけない。 自分の下に出来た血の繋がった妹。 自分よりも弱い存在。 ずっと、自分が護らなければ思っていた。 刃が振り下ろされそうになる、思わず少年は眼を閉じ、すぐに来る衝撃を覚悟して待った。 …だがそれは来なかった。男がなんのつもりだと、叫んでいるのが耳に届いた。そろりと、双眼を開く。 目の前で男が他の男達に動きを止められているのが見えた。その制止を振り切ろうと暴れるが、その戒めは解けずずるずると引っ張られて行く。 「いい加減にしろ!折角の人質を殺す莫迦がどこにいる。 滅多にないチャンスを台なしにする気か!」 そんな声が飛び交っていた気がする。だが少年は半分も理解出来なかった。 頭の中がぐるぐると回っていて、眼を瞬かせる。漸く自分は生きていると自覚すると、ほっと息をつくと同時に、消えていた身体の震えがまた現れた。 どっと、恐怖が全身に広がる。 「レスト兄…ごめん、ごめんね。大丈夫?ごめんね」 後ろから震えた声が耳に届いた。答えようと、声が震えそうなのに気付いて、少年はすっと息を吸った。 しっかりしろと、心の中で自分を叱る。ここで自分が怯えてどうなる、と。 少年は、大丈夫だと少女に言葉を返した。 |
エカキ板にて書いていた駄文の全文…はいりきらなかった…(汗)
ほんとは隠し部屋に置いた方が適切なんですが…そのうち移動します…