「あ」
 綺麗な青空が広がる午後、この時期テルミナには外からやってくる流れの商人が道端に品を広げる。流れ商人の組合があるらしく、年に数回、このような事が行われる様だ。そうでなければ道端で流れ者が商売する等、すぐに騎士が飛んで来て取り締まられてしまう。
 いつもよりも人口密度が多いテルミナの道を二人歩いていたが、ふと呟いて彼が手にとったものは小さな箱だった。蓋をあけると、鉛筆を短くしたものがいくつか並んで置かれている。そういえば、と横から覗き込んでいたキッドは遠い昔よく使っていたものを思い出す。そうだ、クレヨンと言ったか。
「はは、懐かしいや」
 新品のそれを眺めつつ、目の前で自分達を見る商人に幾らかと問うている。
「なあ、お前知ってんの?」
 こう言っては相手に失礼だとは思うが、大陸に比べたらこの島の文化レベルは見比べる迄もなく低かった。ただ、それを望んでいる傾向もあるし大陸との交流はこの港町を介して盛んに行われている事も含め、全く知らない事はないだろうとは思うものの。
 うん、と深海の海の色を宿した髪を揺らし、セルジュが頷く。
「ずっと昔だと思うけど、父さんが母さんを連れてエルニドに帰ろうとしてた時に「将来の自分達の子に」って買ってたんだって。物心つく前から持ってて、いつ貰ったんだっけかと母さんに聞いてみた事があって」
 青が好きだったんだ、と青のクレヨンを取り出し、じっと見つめる。懐かしむような、嬉しいような、少し寂し気な横顔をキッドは見つめていたが、視線に気付き彼が彼女に視線を向ける時には、その色は既に消えていた。
 セルジュは箱を数個持ち上げ、商人に話し掛ける。どうやら買ったらしい。
「そんな何個も、どうするんだ?」
 紙袋に詰め込まれて渡されたクレヨンを抱えて、セルジュはうん、と相槌を打ちつつ市を歩き出す。
「アルニの子供達にあげようと思って。誕生日も過ぎちゃった子とか、今年はなにもしてあげられなかったから」
「また…お前はよ」
 自分の誕生日をまるっきり忘れていた奴の言葉なのかと呆れて見たが、セルジュはただ笑って歩をすすめるだけだった。



HOME

クレヨンぐらいはあるだろうなと…ていうか孤児院のあの絵はクレヨンですよね?