がしゃん、と鎧が床に落ちてけたたましい音をたてる。 飛び上がりそうな程に驚いたが、辛うじて声は出なかった。ぐるりと、首を振り向かせて押し殺した声で唸る。 「…気をつけろと言ったのは何処のどいつだ」 「……すまん」 溜息をついて、彼は足元に落ちた肩当てを拾い、音をたてぬ様に棚に置いた。更に鎧を脱ぎ始めたのを見、藤髪の少年もまたベルトを解き鎧を脱ぎさる行動を再開する。 ──先程まで彼の状態が、自分の状態でもあった。 正直に言えばまだ少し動揺が胸の中に残っている。それを取り去ったのが、鎧を落としてしまった少年なのだが、本当は彼も胸中穏やかではないのだろう。 ぴり、と左肩に痛みが走り、肩当てをとって様子を見てみる。隙間を狙われて傷つけられた所に血が滲んでいた、だが、思ったよりも浅いものだ。大袈裟な溜息も出来ず、押し殺しながら息を吐いた。 「カーシュ」 呼ばれて振り向くと、弧を描いて何かが飛んで来た。片手で受け止めたそれは、大陸の方で良く使われるナイフだった。…エルニドではまだ扱われていない。 鞘から引き抜くと、刃特有の鋭利な輝きが微かな灯によって光る。使った痕はある様だが、刃の殺傷効力が低くなった様には見えなかった。 「いいもの持ってんなー…どっから持って来たんだ、こんなもの」 「彼等が隠し持ってたんだ、柄が見えたから拝借して来た。取り合えずそれを持っていた方がいい」 「ああ?どういうことだ?ダリオ」 「戦う訳ではないにしても何かあった方がいいだろう。…鉢合わせした時に武器も無しにどうするつもりだ?」 自分の武器が、と言いかけて、カーシュは声を詰まらせた。ちらりと視線だけで横を見る。足元にあるそれは、歯零れが酷く、柄の部分がばきりと折れている自分が愛用していた斧。もう武器としては使えないのは一目瞭然だった。 それに、そこまで酷くなってしまった原因のひとつに、この館の狭さもあった。この斧を振り回すには、ここは最適ではない。 視線を戻し、自分の手の中にあるナイフをみやる。 「…俺はナイフの扱い方を習ってねえんだよな」 「大丈夫だ、隙をついて懐に入り込めばこっちのものだから」 「お前、俺がそういうの苦手だっての判って言ってんだろ」 「練習にはなるだろう?」 練習。 頭を抱えた。この数時間後は果して自分は、自分達は命を保っていられるだろうかと言う時に。先程の彼の様子は気のせいだったのかもしれない、と思った。 はあ、とダリオが溜息をつく。 「しまった」 「何かあったか?」 「防弾服でも剥いでくれば良かった」 暫く、目を瞬かせる。 「…俺が提案して、お前が却下した話じゃねぇか」 「… … ……そうだった」 再度、彼が溜息をつく。 …………よく判らないが、やはり動揺している様だ。無理もないとは、思うのだが。…少し面白い。 口元に笑みを浮かべ、彼のたんたんと肩を軽く叩いた。 「生きるか死ぬかどっちかしかねえが、なんとか生きてみようぜ、ダリオ。 …先の事を考えたって、今は意味がねえだろう?生きてここから抜け出して大佐やお嬢様達のところへ戻ってから、考えようぜ」 な、と言い笑ってから、反応がかえって来ないダリオの額を拳で小突く。彼は数度瞬きを繰り返し、一度だけ視線を下げ、そして上げた。 「ああ…そうだな。生きて帰ろう、それをまず優先させるか」
某場所の某作品に随分と影響を受けているようでー…(ははは…) |