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:ふたり |
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:華 |
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:海の中へ ふかく、ふかく、ふかく。 |
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:走る |
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:僕は君に生かされている |
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:海と空と笑う碧 |
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:辿り着いた所 |
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:絵板ログがきえたんです… |
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:立ち止まる 時々むつりと口を閉じて、無表情のまま立ち尽くす事があって、それを見て仲間の殆どは彼らしくもないと呟くのだけれど、不思議と自分はそう思ったこともなく、驚くことに彼女もそうは思っておらず、そして。 「案外癖なんだよな、あれ」 彼の事を仲間の中で最もよく知っている彼が、話してくれた。 「カーシュ兄って外見上、ポジティブのようにみられてるけど、実はすごいネガティブなんだよね」 ぱつりと鎧の釦をひとつずつ外しながら、緑灰髪の青年が言葉を紡ぐ。寝台に丁寧に装備していたものを置いて行くのを見ながら、深海色の髪を持った少年が相槌を打ちつつ、皮手袋を外して机に置いた。頭に巻いている赤に黄の紋様が描かれたバンダナを外して、すっかり汗で寝てしまっている髪をくしゃくしゃにかき混ぜる。青年も同じくバンダナを取り外し、何時の間にか長くなった前髪をかきあげて言葉を続けた。 「ほら、俺の兄貴が、できない事は何もないっていう人間だったろ。カーシュ兄ってさ、その人に唯一まともにぶつかり合える存在だったんだ、だけど俺、あの人が兄貴みたいな天才じゃないって事は知ってる。だからいろんな葛藤と戦いながら、人一倍の努力して来た事も知ってる。 でもやっぱり、どうしようもできない事も…いろいろあって」 視線を落して、何かを思い出したのだろう…僅かに言葉を詰まらせ、一度溜息を落した。寝台の隅に腰を下ろして、片足を立てると、重たそうに膝に腕をかけて顎を乗せた。 「昔は、あんなに酷くはなかったんだけどさ。ネガティブだけど、思いつめるタイプじゃなかったから。 …兄貴の事があるまでは」 「…グレン」 名を呼べば少しだけ悲しそうに、グレンが青玉の瞳を細めた。 「莫迦だよなあ、世界は違えど、兄貴が見つかったって言うのに」 「…」 「いや、違うのかな。見つかったからこそ、また自問してるのかもしれない。あの時、」 刃を振るった己の拳は、その時何に怒り、何に恐れ、そして何を考えていたの、かと―― ちりちりと灯篭の火が風に揺れる音が聞えるほどの沈黙、それが暫し、続くのだろうかと思い掛けた頃。 「随分無駄な事考えてねーか?」 声は、扉を挟んだ隣の部屋から聞えてきた。視線をやると、足音もなく少女が部屋に訪れていた。金の糸の様な髪を揺らしながら近付いてくる。 「考えてたって仕方ねーし、お前が責任感じることでもないだろ?」 「キッド」 「カーシュの様な奴は莫迦で頑固だから特に他人に弱みなんて見せないし、あいつは弱くはない、ほっといたっていつかは全部自分の力にしちまうだろうさ」 「そうだけど…」 煮え切らないグレンの様子に、キッドは顔を顰めて肩を落とす。腕を組んで片足の先をはたつかせながら口を開いた。 「あのな、グレン。"あれ"もあいつの性格の一つだろーに、それをおかしいと思ってないか?」 思いがけない言葉だったのだろう、視線を彷徨わせていた彼の青玉が見開いて彼女に向う。 「あいつのどうしようもない所を一番よく知ってるのはお前ぐらいだろうに、お前も周りと同じになってどうするんだよ。 均一してやるな、俺とお前の考え方が違うように、あいつだって俺たちにはわからない部分がある。 …お前はそれを受け入れるだけの許容があるんじゃなかったのかよ」 「…………」 目を瞬かせて、呆然とキッドを見つめるグレン。眉を潜めてキッドが唸る。 「何だよ」 「…驚いた」 「は?」 「キッドに説教受ける日が来るとは思わなかった」 「…厭味か」 「素直に感動してる。キッド、懐広くなったなあ」 ば、と言葉を吐きかけて留まり、ぎろりと一瞬ぼんやりと二人の話を聞いていた少年を睨みつけてから……え、と、驚いた様に少年が肩を竦ませた……近くの寝台にどすと座り込む。そっぽ向いた彼女の面持ちに、グレンは笑みを浮かべた。 「毒されました、って言わんばかりだな。」 「それ以外何があるんだよ」 「キッドの性格じゃないのか?」 さらりと告げられた言葉に、今度はキッドが目を瞬かせた。冷えた空色の瞳をグレンへ向けて、至極真面目に言っているのだという面持ちに、脱力したように息を吐いた。そのまま後ろへ上半身を傾けてシーツの上に転がる。にやにやとグレンが笑ったまま声をかける。 「珍しい、降参?」 「…反抗する気力もねーよ」 はは、とグレンが笑う。その様子をちらと彼女が見、すぐにそれは外れた。 「じゃあ…それもお前の性格か」 「ん?」 「いいんじゃねえの。お前はそうやって、静かに人を見続けてれば。そして本当に必要な時に手を差し伸べる事が出来れば、俺は良いと思う。」 声を失ったのか、グレンからの返答はない。彼を見れば、表情の色を失って、ただじっと彼女を見ていた。不意に彼の肩の向こうの開けた窓、夜空に浮かぶ二つの月が目にとまり、そういえばと、少年が思う。 彼の事を、あの人は月だと例えた事が、あった。 闇に染まった空に浮かぶ、柔らかなふたつの光。それは闇に捕らわれ身動きを取れなくなった者にとっての唯一の道標とも見て取れて。 ……あの人も、そう思っていたのだろうか。 「――まあ」 思考の底に落ちていた意識は、キッドの声で浮上する。 「お前の中にある心配事も、何処かのお節介すぎる誰かさんのお陰でひとつ解決ってか終っちまってるし? ほっときゃ周りのお節介がどうにかするだろ。お前一人が悶々としてる暇なんてないだろうさ」 「…お節介…って――」 迷いなく、グレンの眼が行き着いたところ。 それは今までぼんやりと佇んでいた、少年の所。 「…」 「…セルジュ」 「…」 「…本当の話か?」 「…」 そろ、と夏の空色を埋め込んだ瞳を反らして、暫し彷徨った挙句。 こちらに背を向けてセルジュは床に座り込んだ。彼の行動にグレンは呆気にとられる。髪をかしかしとかき混ぜながら、視線をキッドに向けた。 「…ええと?」 「まあ」 「まあ」 「そういうことだ。こいつは莫迦な事をしたと思ってるらしいが」 「………セルジュらしいというか」 苦笑を浮かべてグレンが呟けば、しゅんとセルジュが項垂れる。 「余計な事だと、判っていたんだけど…」 「ほっとけなかった、んだろ」 グレンの優しい声色に、こくりと頷く。 「グレンもそうなんだと、思うけれど。 …どうしても、傍で見てるのが、辛くて」 「セルジュは人の感情が伝わりやすいもんな」 「感化されやすいだけだろ。どっちかというと俺はこっちの方をどうにかしたいと思うんだが」 「カーシュとセルジュじゃ立場が違うだろう?」 「…前から思ってたけど、意外にお前って自分の手が伸ばせる以上に物事抱え込もうとするよな」 そうだろうか、と首を傾げて暫し思案後。 「別に、目の前に見えるものだけでも、護れたらと思ってるだけなんだけどな」 「ああ、…そういう考え方か――」 (うちのカーシュはネガティブなんですよ、という話…この三人の会話は書いていてとても楽しいです) |
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:髪の話 「ねえ、カー兄ってもう髪伸ばさないの?」 「はっ? 誰に聞いたんだよんな事」 「わたしが物心ついたときはまだ伸ばしてたでしょ」 「…だったか?」 「そう、それに父さんがたまに話してくれるし」 (…あんっの莫迦がッ) 「全然手入れしてなかったのに、すごーい綺麗だったって聞いてるよ」 「錯覚だ錯覚。ほんとに伸ばしっぱなしだったんだよ。切るのが面倒でほっといたらああなってたんだ」 「それだけ?」 「なんだ」 「カー兄って、髪触られるのが嫌いなんだと思ってたから」 「…」 「あ、図星図星? やったーさすが私ってば冴えてる!」 「…シーア」 「へへーごめん。でも、ほんとになんで?」 「…(溜息)昔、気色悪い上司が居たんだよ。べったべた人の髪触ってきやがって嫌がらせかと思ったね」 「嫌がらせだったの?」 「そいつなりの好意だったから性質が悪かったんだ」 「…あーうん、へえ」 「なんだ」 「でもわたしは、カー兄の髪好きだなあ」 「…そうか」 (こどもたち。の二人。髪のネタはあちこちで書いているような…) |