指輪練習その二。アラゴルンとボロミア。
うちの馳夫さん中の人の影響を受けまくってちょっと変な人になってしまった…
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何時聞いても不思議な音だとボロミアは思った。
そして不思議な男だと、ボロミアは思った。
夜の帳が下りた森の中、火を囲むようにして、旅の仲間達は思い思いの格好で暫しの眠りについている。
その中で、木の幹の上に載せた布の上に頭を横たえて眠りにつこうとしていたボロミアは、しかし一向に眠りに落ちる気配がなかった。一日中歩き通しで身体は疲れているのに、意識が冴えてしまっている。夕暮れと共に襲ってきた狼達との攻防で神経が昂ぶったままなのだ。
参った。不審火の番に気付かれぬようにため息をつく。明日も延々と森の中を歩き続けるのだ、少しでも身体を休めねばならないというのに。
いっその事起きてしまって番を変わってしまおうかとも思うが、流石に其処までは身体は無事ではなかった。狼に体当たりされ木に打ち付けた背が熱を持っている。これも眠れぬ原因の一つなのだろう。
不意に、火の近くで砂利の掏れる音がした。その音は静かに近付いてきて、火の音を遮るように目の前で止まった。視線が注がれるのを肌で感じる。
「ボロミア」
掠れ声が、歌う様に彼の名を呼ぶ。答えを待たず眠れぬのかと声がひとりごちて、隣に腰を下ろすのが判る。
己の頭を寄せている幹に寄りかかるようにする彼に、顔を上げて何か言ったほうが良いのかと迷った。しかし何を言えばよいのか、彼には一方的に蟠りがまだ残っているのだ。二人きりで話をするというのは、正直辛い。
そう動かぬまま悩んでいると、するりと空気が動いた。構える間もなく、その指先が顔を覆っていた髪にかかる。ゆるりと指先は髪を梳いて流し、そして目を覆うように、手が被さる。
何を、しているのか。
声を出す前に、彼のささやきが聞こえてきて口を噤んだ。
囁きと思われたそれは、歌だった。言葉のわからない歌、エルフの言葉。
けれど何故だろうか、何処かそれは懐かしい音色だった。
思い出すのは母の歌。彼女はエルフの言葉を少しばかりだが理解していた。沢山の故郷の歌を歌うと同時に、エルフの歌を歌った。
その所為だろうかと思ったのだが、それもどこか違う気がすると、意識の片隅で思った。
ならば何かという問いは、歌に導かれて落ちていく意識と共に四散していった。
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うちの馳夫さんは昔の感覚が抜けなくて時々ボロミアを子供のように扱う人です。
普通に話したり戦ったりするときは何でもないんだけど、時々見せる破顔とか、そういうのを見ると一気に昔を思い出してつい頭を撫でたくなったりする人。
…になっちゃったよ…わあーわあーわあーマジかー