はじめてクロデキルドさんを書きますがねたは前にちょろっと書いたディルク関係のです…(またか)(またです!)
わたしほんとにディルク好きだなーと思うんだけど、うん、思うのもあるけど、もひとつ思ったのが自分でどう彼を消化するか迷ってるのもあるのかもしれません。
実のところなんであんなになったのかが私にもつかみきれてない。というか捏造するしかないなと。
(捏造ですか)(うん、捏造です)(………)
以下捏造!
※ロベルトが若干もうしわけないことになってます
蝶番が錆びついた音をたてて、ゆるりと動く。そうして見えてきた部屋の中は、あまりにも異様だった。
その部屋に訪れたことは幾度もあるが、部屋の雰囲気は常に明るかった。主が底抜けに明るい性格をしていたからその様な印象を受けていたのだろうと、目の前に広がる空間を見ながらクロデキルドは意識の隅で思った。
その部屋には、四人、子供がいた。
扉を開けた正面、部屋の奥に、身を寄せ合うように床に座り込んでいる。
扉に向かう様に座っているのはジェイルだ。その隣にはマリカ。二人とも顔を俯けて、動きを見せる気配がない。マリカの背、部屋の奥側に、両膝を抱えて縮こまるリウの姿があった。彼の肩はいまだ震えている。時折嗚咽を抑えて、息を殺していた。そして、その、隣。
部屋の主であり、マティアス団を率いる団長でもあるレストマーは、扉に背を向けて、壁に身体を寄せながら、微動だにしなかった。彼の後姿が、部屋全体に重苦しい沈黙をつくっている様で――
その様に、クロデキルドは顔を顰めた。リウのように泣いているならば、まだ良かったと思う。けれど身体を震えることもなく、それどころか息をしているのかすら判らないほどに動きがない。常の彼とは真逆の様子に、今回の出来事がどれだけ彼に衝撃を与えたのかが、よく判った。
……数時間前まで聞こえていた慟哭が、耳に焼き付いて離れない。
不意に、金髪の髪が流れる。目の前で片膝を立てて俯いていたジェイルが顔を上げた。目元を赤く腫らした暗い顔に、クロデキルドは言葉も無くただ彼を見てしまう。
表情が抜けていたその顔に、申し訳なさそうな笑みが微かに浮かぶ。そしてジェイルは、クロデキルドに小さく首を横に振った。
「――……っ」
それだけで、皆が、レストマーがまだ動けぬことを知る。彼らに詫びる様に小さく礼をしてから、ゆっくりと扉を戻した。戸の閉まる音が、いやに響く。
通路を渡って廊下に出ると、アスアドが階段脇で待っていた。彼に視線を向けて問われるが、この場では言いにくく、ただジェイルと同じように首を横に振るだけ。
一度口を開きかけるも、アスアドは口を閉じ、視線を足元に下ろした。両の拳に力が入るのが見える。その力を緩ませるように肩を叩いて、階下へと誘導した。
ローガンとエリンが宿と兼営している酒場へ入ると、主だった者達が一斉にクロデキルドに視線を向けた。彼女はそれに首をゆるりと振る。
「…言葉をかけることすら出来なかった。すまない」
「…そうか。流石に今回は、もう少し時間を置かねばなるまいか」
フューリーロアの王、ダイアルフがため息混じりに呟くと、方々からも気落ちするため息が聞こえてくる。
「クロデキルド殿…申し訳ない。本来なら私が行くべきだったのだが…」
シトロ村の村長であるラジムが声をかけてくるのに、彼女はいや、と首を振った。
「貴方も突然の事で驚かれているだろう。元より様子を見に行くだけだったのだ、気にしないで欲しい」
影を落とした表情で僅かに笑み、頭を下げる彼に何も言えず、クロデキルドは礼を返し剣士団が集まるテーブルへと向かった。椅子に腰掛けて、深く息を吐く。一気に力が抜けて脱力感が身体を襲った。
「クロデキルド様…大丈夫ですか」
付き添っていたアスアドが声をかけてくるのに、すまない、と彼女は応えた。
「つい緊張してしまっていたらしい。この城に来てから、この様に城全体が重苦しい雰囲気が続くのは初めてだからな、肩が強張ってしまっていたようだ」
「…そう、ですね。恐らく皆も思っておりましょう」
それまでも、心を痛める出来事は多々あった。鎮痛の面差しのアスアドの故郷が失われたのは、そう前のことでもない。
けれどいつも、その皆が奮い立ち前を向けたのは、レストマーが前を向いていたからだ。彼が立ち止まる事を良しとしなかった。その彼が、前を向けないで膝をついている。マティアス団の仲間に動揺が走ったのは仕方ないことだろうと彼女は思った。そして彼女自身もまた少なからず動揺しているのだろう。動けぬ彼の代わりにやらなければいけないこと、やれることはある筈だ、けれど動くことが、どうにも出来なかった。
彼の、彼らの叫び声が耳から離れない。声を聞き駆けつけた先にあったのは、只溢れる彼らの慟哭だった。見えたのは、蹲るレストマーを護るように、庇うように、抱き締める少年達の姿だった。
「ディアドラが融合した世界の様子を見に行ったよ」
不意に聞こえた言葉に顔を上げる。レストマーの幼馴染、ジェイルの母親であるセレンが酒場へやってきていた。
「ファラモンから徒歩だから、暫くかかるとさ。
……で、この分だとレストマー達はまだ動けない様子だったかい」
肩を竦めて、苦笑交じりに呟く。クロデキルドが頷くと、仕方ない、と彼女は視線を下ろした。
「あの子達はディルクと居た時間が長いからね。それにレストマーにとっては、本当に兄代わりのようなものだったから」
彼女は眼を細めて、彼女らしからぬ、小さな囁きで呟く。それはクロデキルドも理解できた。レストマーはディルクの離反後も、協会側の人間となり妨害を受けた時も、一度も彼を敵とも言わず、敵対もしなかった。剣を交えることは幾度かあったものの、最後まで彼が戻ってくることを疑わなかった……結局最後は、こんな形になってしまったのだが。
あいつもいたから、俺がいるんだ。
そう、言ったことがある。幼馴染や親友とは違う次元の、信頼と敬愛を持って、幸せなのだと言わんばかりの笑顔で。
「…なら、なんで…」
憤った掠れ声が、酒場に零れた。
「あいつの傍を離れた…っ」
「…ロベルト」
クロデキルドの呼び声を切欠にするように、付き添うように剣士団のテーブルの傍で佇んでいたロベルトが顔を上げて声をはりあげた。
「レストマーの兄と自負するなら、どうして離れた! 敵対した! レストマーを苦しませて、ジェイル達を戸惑わせて、傷つけて! 挙句に最後は勝手にあいつらを護って死ぬなんて! 自分勝手すぎるだろう…ッ」
ぎりぎりと握り拳を硬く握りながら、セレンを見てはいても誰に言うでもなく彼は叫ぶ。
「どれだけレストマーが苦しんだと思ってる、どれだけ悩ませたと思ってるっ。
あいつらを護りたかったというなら、どうして、どうして…っ」
それ以上の言葉が紡げず、ロベルトは顔を俯かせた。そして彼の叫びにも誰も言葉を紡げず、沈黙が降りる。
ロベルトは、マティアス団に身を寄せるようになってから、よくレストマーと行動を共にするようになっていた。彼と共にディルクと鉢合わせた事もあり、レストマーから少なからず話は聞いているらしい。だからこその怒りなのだろう、それはこの場にいる者の殆どが感じた事だろう。
彼の気持は理解すれど、窘めるべきだとクロデキルドが口を開こうとした刹那。
がたん、と椅子が倒れる音がした。
見やれば、倒れた椅子の傍には、ラジムの娘であるシスカが佇んでいた。今にも泣きそうな表情でロベルトを見、ゆるりと歩き始める。
いつもとは違う雰囲気に誰も声をかけることが出来ず、彼女はとうとうロベルトの手前までやってきた。彼女が動いたことに対応できずにただ困惑するロベルトを目の前に、彼女は静かに彼を見ていた。そして、徐に右手を上げて、
ぱぁんっ。
乾いた音が、響いた。ロベルトの頬に平手打ちを下ろしたシスカを、クロデキルドは目を見開いてみた。
ロベルトもまだ自分に起こったことが理解できずに居るようだ。叩かれた耐性のまま動けずに居る。そこに、俯いた彼女から、小さな呟きが降ってきた。
「…貴方が、レストマーちゃんの事を心配してくれてるのは判るし、嬉しいわ。ジェイルちゃんも、リウちゃんも、マリカちゃんも、皆彼が好きで、だから皆傷ついている。そんなことは判っているし、私だって彼が目の前にいたら、莫迦って叱ったと思うわ。
…でも、でもね」
顔を上げる、彼女の頬に一筋の雫が流れて、ぱたりと床に落ちた。
「貴方がディルクの事を言わないで! ディルクがどんな風に生きて、どんな風に思って、どんな事を決めたのかも知らないで、言わないで!
ディルクがどんな気持であのこを一生護ると決めたのかも知らないで、彼がどんなものを捨てて、犠牲にしたのかも知らないで、言わないで…!」
----
小さい頃は呼び捨てため口だといいなあという妄想…ディルシスすきです…
考えれば考えるほどこの話長くなって収拾つきません。おわらなさそう。