陽が暮れて薄暗くなった森が、煌々と燃える炎の光に照らされ、怪しく揺らめいていた。 熱気、悲鳴、断末魔、嘲笑… 何処を見渡しても、村の中はそればかり。見知った村人達が逃げ回る中に、見知らぬ出立ちの男がうろつく。深紅に染まった刃がゆらりゆらりと揺れる度、音もなく血が大地に振りまかれた。 「──お母さん!」 恐怖に叫ぶしかなかった。夕餉の支度の為に薪を取りに森へ入ってからそう経っては居ない。けれど村へ返ってみれば、其処は既に阿鼻叫喚の溢れる地獄絵図と化していた。 村の外から家へと向かう。一番近場へと来てみても、風景は代わり映えしなかった。火が家から家へと移り、熱気とともに何処までも広がって行く。 息を呑んだ。身体が震えて覚束ない。このまま逃げた方が良いのかもしれない。だが、両親が家にいる。二人はまだ自分を捜しているかもしれない。 「…」 恐る恐る、柵を乗り越え燃え盛る村へと入って行った。 家路の道を辿ろうとする、けれどその道を行こうとすると、村人が横切っていく。その後を男が追う。半ば反射で元来た道を戻り、辺りを見回しながら再度進む、其の繰り返し。 「お母さん、お父さん…っ」 それでも足を止められなかった。歩き慣れた道を、今まで見た事もない道の様に右往左往しながら進む。傍でたなびく火の熱が容赦なく肌や髪を痛めつけて、よろめきながら逃れた。視界の端で火に巻かれた誰かが奇声を上げながら踊っている。 「母さん…」 何が起こっているのか、目の前で何かが起こっているのに、何ひとつ理解出来ない。ただ闇雲に家へと向かった。 十字路の脇から走って来る複数の人影を見て身を伏せれば、影はそのまま真直ぐに横切って行く。それを追い掛けるもうひとつの影。 影が、何かを振り回した。くぐもった、声とも言えぬ音。どうと地に何かが落ちて、影が見知った者の名を紡ぐ。 嗚呼、あのひとが、斬られた。 気付いた瞬間、混乱が頂点に達した。 辺りに充満する悲鳴は誰かの声ではない、"あのひと"の声、なのだ。 両親が、地に伏せた躯と重なる。 「…嫌だッ!」 咄嗟に走り出した。両親を呼びながら、がむしゃらに駆ける。 「お母さん、お父さん! どこ、ねえ、何処にいるの…っ」 走れば走る程、道端に横たわっている人の数が増えて行く。昼間一緒に川へ遊びに行った友人が、母親に抱かれたまま倒れていた。母親の背に、火掻き棒の取手が伸びている。 どんな時でも訊ねた事を丁寧に教えてくれた老人は、腹を裂かれ内蔵をまき散らして花畑の中に埋もれていた。 この村で年長の少女は、片手片足がなくなっていた。まだ繋がっている手を伸ばす先には、自分と同じ年の弟。…頭が見当たらず、恐らくは、としか言いようがない。 嘘だ、嘘だ、嘘だ、 誰も彼もが涸れ行くばかりの大地に横たわっている。身体に火がついてもぴくりとも身動きをしない。 何かに躓いて、肩を強かに打ち付けた。痛みに震えながら顔を上げると、躓いたのは、隣の家に住んでいた従兄弟の腕だった。硝子の様な瞳が、轟々と燃える火の光を虚ろに映し出している。 喉の奥で、悲鳴が出かかり、掠れ声となって吐き出される。 走り続けて来たのと、あまりの恐怖に、もう呼吸をまともに繰り返すことが出来ない。 「お、かあ…さ…」 動く事すら出来ず、その場に踞りかけて、不意に聞こえたものに無意識に顔を上げる。 聞きたかった音が、聞こえた気がした。 ……ザ、 「かあさ…」 「──エルザ!」 悲鳴として、声が届く、顔を向ければ、会いたかった母親が、必死の様相で走って来る。 「逃げて、エルザッ!」 意味を理解する前に、ざ、と土が擦れる音が耳に届いた。 振り仰ぐと同時に、深紅に染まった刃が構えられ── 躊躇なく、振り下ろされた。 ばきんと木が爆ぜる音で、目が覚めた。浅くなっていた息を繰り返しながら、静けさの中にいることに違和感を覚えた。自分が今何処に居るのかが思い出せない、落ち着け、落ち着けと、深呼吸を繰り返す。 呼吸が落ち着いて来ると、次第に今の自分を思い出す。そうだ、仕事で仲間たちと森を抜ける途中だったのだ。 (最近は、あまり見なくなったと思ったのにな…) 額に溢れ出ていた汗を拭って、軽く息をはいた。 「──エルザ」 と、名前を呼ばれ、ぎくりと身を堅くする。ゆるりと身体を起こして振り向けば、兄貴分であるクォークがエルザを見ていた。 剣を抱えて焚火に焼べる薪を脇に置いているのを見ると、彼が火の番だったようだ。 「…ごめん。煩かったかな」 「いや。だが、随分魘されていたな」 嗚呼、と呻いて頭を抱えたくなった。恐らくは何を夢見ていたか、クォークにはもう気付かれているだろう。 情けないと滅入りつつ、エルザは首を振った。 「夢見が悪かったんだ。気にしないで、もう大丈夫だから」 そう告げたエルザを、クォークがじっと見つめてくる。耐え切れず視線を反らせば、返って来たのは溜息。 「クォーク…」 彼を呼んだが、彼は応えず。徐に立ち上がった。荷物とともに纏めていた毛布を持ち出して、エルザの方へと歩み寄る。 「クォーク?」 またも彼は応えない。それどころかエルザを足先で軽く蹴りつけ、寝床の端へと追いやってから、空いたスペースへ腰を下ろした。 「く、クォーク? なに、をっ」 問いかける前にがしりと頭を掴まれ、そのまま倒れる。胸板に顔を押し付けられた状態で毛布が新たに被さってくるのに、エルザは何が起こったのか暫く理解出来なかった。 「ちょ、クォーク、一体何を…っ」 「何って、添い寝だろ?」 「はあ!? な、なんで、」 「何だ、今更恥ずかしがる事じゃないだろう。昔はよくやってたじゃないか」 「昔の話だろうっ。今はやってないじゃないか! なのに…」 「故郷の夢を見て飛び起きた後は、一人じゃ眠れないのは、今も変わらないんだろ」 「っ、」 音が喉に詰まり、言葉が出て来なかった。 「眠れないまま一夜明けて、また次も眠れないのが恐くて、人の温もりが恋しくなるんだろ。街に居るなら適当に相手見つけられるだろうが、此処にはセイレンかマナミアしかいない。二人には手を出せないよな。 おまけに仕事はまだ終わってないんだ。俺達の「眼」でもあるお前が不調になられちゃ、困るんだよ。 だからまあ、俺で我慢しとけ」 たんたんと背中を叩かれて、ああ、と声なく項垂れた。 …気付かれない様にして来たつもりなのに。 「本当に、クォークには隠し事は出来ないな…」 「ばぁか、何年一緒に居ると思ってるんだ」 「はは、そうだね。…うん、じゃあ、少しだけ借りる」 「ああ」 少し逡巡して、のそりと片腕をクォークの背に伸ばす。応える様に彼の両腕が背に回って、抱き込まれた。鍛えられた身体は、最早朧げにしか記憶にない父親を微かに思い出させる。昔はそんなことなかったのだが。 「久し振りだな。随分前だったかな、こうして寝たのは」 「そうでもないよ。最後は二年前だ、ほら、ジャッカルが大怪我をした…」 「ああ…あの時か。お前、あの寒空の中で海に落ちたんだよな」 ぐ、とすっかり忘れていた出来事を突かれ、反応がひとつ遅れる。 「し、仕方がなかったじゃないか。足場が凄く滑りやすかったし…」 「あんな岩場まで降りるお前が悪かったんだろ。上から海へ捨てれば良かったんだ」 「う…」 「俺もほとほと疲れ果てて大分判断能力が欠けていたのも悪かったが。いやいや大変だったな、お前を引き上げるのも引き上げた後追っ手から逃げるのに走り回るのも寝床探すのも」 「…〜〜〜ッ」 拳で叩いて抗議を送れば、くつくつと笑い声が響いて来る。 「あれも、ま、良い経験になったな。終わりよければ全て良し、だ」 「良いのか…あれが」 「過去の事をそう突くな。ほら、さっさと寝ろ」 ぎゅう、と強く抱き込まれて、身動きどころか息をするのさえ苦しくなって、エルザはばしばしとクォークの背を叩いた。完全に遊ばれているのは判っていた。 くつくつとまた笑う声が身体に響く。ここまで近ければ、声は音と言うより、振動で伝わる。昔は寒さに耐える為にこうして肩を寄せて眠りについたが、眠るまでの会話は、不思議と安堵をもたらすものだった事を思い出す。 「……二年前か」 ぽつりと、クォークが呟く。腕の力が緩んで、掌がエルザの髪を撫でた。 「随分、大きくなったな。服のサイズが合わなくなる訳だ」 「そうだな、此処数年で大分伸びた。クォークには届かなかったけど…」 「だがセイレンは抜いたな。そうか、もうそんなに年月が経っていたか」 うん、とエルザは頷いた。振動と彼から伝わる温もりに、徐々に身体の力が抜けて行く。 「…大きくなったな」 独り言の様な呟きには、何も応えられなかった。その声色は、まるで成長したと感心する親の様な響きだ。エルザ自身は、自分が成長したとは到底思えない。今もこうしてクォークに頼ってしまっている。 クォークの背後ではなく、隣に居たいのに、そのたった少しの距離が酷く遠い。 「…図体だけ、でっかくなったって、仕様がないだろ」 「ん?」 「これじゃ、セイレンに莫迦にされても文句言えない…」 「おい、どうした。やけにネガティブだな」 「…嫌なんだ」 夢が、脳裏に浮ぶ。逃げ回るだけだった幼い頃の自分。その後も、大人とは言えないクォークの背中を追い掛けるしかなかった。 「足手纏いはもういやだ。誰かが傷つくのをみているだけは、もう沢山だ…」 そう思って、必死に強くなろうとしている。 けれど何もかもが、追い付かない。今でもまだ、追い掛けるばかりだ。 「…、莫迦だな、お前は」 間が暫し空いて、溜息混じりに呆れた声色が響く。強ばった指先が、エルザの髪を梳いて、撫でた。 「俺達はもう、何度もお前に助けられている。お前が助けてくれなかったら命がなかっただろうという状況がどれだけあった?」 「でも…」 「そういうのはな、持ちつ持たれつなんだよ。強くなれば何でも一人で出来ると思うんじゃない。」 「…」 「お前の技量は確かにまだ未熟だ。だが、他の皆にはないものを、ちゃんと持ってるんだ。ちゃんと認識して、ちゃんと伸ばせ。そして自分を護る力を持て。 自分を護れる力を持って、初めて本当に、誰かを護れるんだ」 「…ああ」 小さく頷く。ふと、また溜息がクォークから漏れる。 「そういう所は、相変わらずだなあ、お前は。必要以上に背伸びをしたがる」 「クォークだって背伸びしてたじゃないか」 「俺は必要だったからさ。お前は無理しなくて良いんだよ。 俺は捻くれて育っちまったからな、お前だけでもまっとうに成長してくれ」 「…今こうなってるだけでもう手遅れの様な気がする」 「成人にもなってない癖に手遅れとか言うなよ、ガキが」 「………クォークもそういう所かわってない」 「ガキって言われてむくれるお前も変わってないな」 ばしん、と彼の背中を強く叩いた。いてぇ、と言いつつクォークはまた笑う。 「ほら、遊んでないでそろそろ本当に寝ろよ」 「クォークが寝かせてくれないんだろ」 「お前が落ち込むと眠れなくなるから持ち上げてるんだろ」 「やり方がひどすぎる」 「今度は文句を始めたかテメェ」 「文句のひとつも言いたくなるんだ」 「言ったなぁ?」 「言ったけど何か?」 背に回った腕が、再度力を強めた。ぐっと身体を締められ、エルザは息が詰まる。 「ちょ…くるし…っ」 「良いからそのまま寝ちまえ」 「これ…寝るっていうより落ち…ッ」 みしみしと身体が悲鳴を上げている。治したばかりの骨にヒビが入りそうだ、なんて意識の片隅で思いながら、必死に呼吸を行うも、肺を圧迫されて上手く行えない。 本当に落ちそうになった寸前に力が緩められて、エルザは酸素を取り入れるために深呼吸を繰り返した。ぐったりと横たわるエルザの背を軽く叩き、クォークは頷いて言った。 「よし、大人しくなったな。さっさと寝とけ」 「…、の、莫迦クォーク…っ。骨にヒビがはいるかと…っ」 「ああ、そういや治したばかりのがあったな。悪いな」 あっけらかんと謝られて、ぐうの音も出せなかった。 深く吸った息を長々と吐いて、顔を彼の胸板に押し込む。 「…ああもう、これだから…」 「んん?」 「何でもない。…おやすみ」 「ああ、おやすみ」 そう言い、エルザは眼を閉じた。 言葉を交わすのを止めてしまえば、聞こえてくるのは火の爆ぜる音、風に揺れてざわめく木々の葉擦れ。深い眠りについている仲間たちの身じろぎで起きる布の擦れる音。 深く息を吸えば、仄かに香る匂いたち。クォークの体臭と、彼の纏う草臥れた綿と皮革の衣服。枯れてゆくばかりの大地の土埃。 血の匂いは、しない。悲鳴は聞こえない。 判っているのに。 「…まだ眠れないか」 暫く経ってから、ぽつりと問われるのに、静かに頷いた。 「ごめん、今日は、駄目かも」 「眼だけでも瞑っとけ。それとも、瞑るのが恐いか」 「どう、だろう。本当に、久し振りに見たから…」 「やれやれ、何時振りかな、お前が眠れないって言うのは」 「それは、もう大分前かな」 顔を僅かに仰向けて眼を開けば、毛布に覆われている彼の肩が見える。 「クォークは昔から身体が大きかったけど、今程じゃなかったなあ。 あの頃は今の僕よりも小さかった」 「…。ああ、そうだな」 「…白状するとさ」 やんわりと頭を撫でる動きに目を細め、無意識に擦り寄った。 「こうして抱えてもらってる時が一番安心出来るんだ。クォークは、絶対に僕を見捨てないでいてくれるから」 「ああ」 「そんな人の身体が暖かくて、心臓がちゃんと動いていて、息をしている。そういうのが、判ると、すごく安心出来る。」 「エルザ」 「大丈夫だよ。もう大丈夫なんだ。…でも時々恐くなるんだ。 クォークは僕に甘いから、甘えてしまいたくなる」 「…こんな時位は、甘えたって良いさ」 「…うん」 「そうして元気になれば、良いだろ」 「うん…」 「もう立てる、と思った時に、自分で立てば良い」 「うん」 「…大丈夫だ」 静かに、彼は言う。 「お前は大丈夫だよ、エルザ」 緩んでいた力が戻り、確りと抱き込まれて、もう一度、大丈夫だと、彼が呟く。 身体の芯で凍っていた何かが、少しずつ解きほぐされて行くのを感じた。 「…クォーク」 「ん」 「ありがとう…」 「ああ」 大きく息を吸って、ゆっくりと吐き出す。最後の氷塊が溶けて、ゆるゆると意識が落ちて行くのが判る。 「ねむれ…そ…」 「ああ、おやすみ、エルザ」 その言葉を最後に、エルザの意識は途絶えた。 梢が風に揺れてさわさわと音を立てている。それに混じって、鳥の歌声が聞こえて来た。翼を羽ばたかせる音がいくつも聞こえる、渡り鳥だろうか。 揺れる度にささやかに大地に降り注ぐ木漏れ日が目元にちらついて、エルザは無意識に逃げる様に身体を俯けた。その時、ふわりと柔らかいものに触れて、意識が急速に浮上して行く。 「………う?」 僅かに眼を開ければ、目の前に何かがある。あるのだが、近すぎて逆に見えない。其のときだった。 「グッモォニーン、エルザぁ?」 楽しそうなセイレンの声が、真横から…エルザにしてみれば真上から、聞こえた。 「……うわああああぁぁぁあッ!!」 状況を理解した途端、ほぼ反射でエルザがその場から飛び退く。叫び声にまだ眠っていたらしいユーリスとマナミアが飛び起きるが、二人の様子に気付く事なく、エルザは自分の寝床から後退った。 「な、な、な…」 「ひっでーなあ。折角セイレンお姉様が添い寝してやったのにその態度はねえんじゃねーかあ?」 「何してるんだよッ!」 「何って、添い寝?」 「だからどうして!」 むぅ、と些か機嫌を損ねた様子でセイレンはエルザを睨む。 「お前ってさあ、寝てる時に誰かが傍に来るといっつも目覚めるんだよなあ」 「はあ!?」 「それが敵意があるにしてもなしにしてもだぜえ? ちょっと敏感すぎやしねーかって思ってたんだけど、クォークは平気なんだなあ」 「待ってくれ、何で其処に、クォー…ク…」 其処ではたと、昨夜の事を思い出す。そうだ、ほとんど不貞寝に近い状態で眠ったのだったとエルザは思う。 慌てて顔を上げてセイレンを見やれば、彼女はにっこりと笑った。背に蝙蝠の翼、そして黒い尻尾の幻影が見える。 「麗しき兄弟愛、じーっくり堪能させてもらいましたあ」 「………ッ!」 「…あー。時既に遅しってか」 エルザの顔が茹蛸の様に真っ赤になった頃、姿が見えなくなっていた仲間の二人がふらりと戻って来た。勢い良く振り向けばジャッカルとクォークが僅かに後退りする。 「……クォーク…ッ」 「…聞かなくても状況は何となく判った。すまない」 「ううー…っ」 思わず叫びだしたくなるのを何とかどうにか堪える。しかし背後でまだ黒い羽を生やした悪魔がいるのを感じ、がばりと起き上がり、 「顔洗って来るっ」 そのまま、逃げた。 野営地から伸びる道を脇にそれて行くと小さな小川が流れている。その川に顔ごと突っ込み、ぶくぶくと息を吐く事暫し。 のろのろと顔を上げて、揺れる水面に映る自分の顔を見た。頭の頂点にまで上った血はようやっと下がった様で、昨日から幾度吐いたか知れない溜息をついた。 其の頭に布が被さって来て、上を見上げると、予想通りにそこにはクォークが佇んでいた。 「すまんな。油断していた」 「…いいよ、元々は俺が悪かったんだし」 「眠れたか?」 頷いて応える。あの後は夢の続きを見る事もなかった。 それを見てクォークも頷き、布の上からエルザの髪をくしゃくしゃにかき回した。 「あと一日は此処を抜けられない。平気か」 「大丈夫だよ。昨日は、久し振りだっただけだから」 「…まあ、そういう事にしておこう。」 「なんだよその言い草は」 「いいや、何でもないよ。 朝飯にしよう、エルザ」 「…うん」 布で軽く顔を拭って立ち上がる。先を行くクォークの後を追い掛けようとして、ふと何かに気付いて振り向いた。目の前に流れるのは小さな川。 ああ、そうだ。思い出す、あの故郷で最後に遊んだ川も、こんな小さな川だった。 「エルザ」 名を呼ばれ、顔を向ければ、クォークが立ち止まってこちらを伺っている。何処か思案げな様子の彼に、エルザは笑った。 「今行くよ、クォーク」 そうして、彼の後を追い掛けて行く。 ---- いろんな話を書いては端折りました。おまけに端折った部分も最終的には消しました。 もったいなかったのでおまけとして整えていたらまただらだらと書いています。 →在る夜の後(クォークサイド) 実はちょっと下品なネタが入る予定だったんだけど悉くなくなりました。気力がおいつかなかった… でもこれだけ。エルザの顔にあたった柔らかいものは言うまでもなくセイレンの胸です。 ■ |