短編としてまとまってたりまとまってなかったりする文章のログ
※血の表現やらいろいろと節操がない部分ありますのでご注意ください







ふかふか

「んぎゃあああああああああああッ!」

「!」
「な、なにっ!?」
「魔物!?」
 突然上がった叫びに、各々眠りについていた仲間達は文字通り飛び上がった。森の中での野宿、火の番についていた筈のリウすら飛び上がって(舟をこいでいたようだ)、咄嗟に傍においていた武器に手をかけた。離れた場所で毛布に包まっていたマリカ、ジェイルも同じく起き上がって武器を取る。そして、声が上がった方を振り返った。
 振り返った先にいたのは、間近に叫びを聞いたにも関わらずいまだ眠気眼のフューリーロア、クーガと。
「いっ、いっ、いってええええええええ!!
 おいクーガ! 起きろッ!」
「…んあ?」
「んあじゃねえ! 寝ぼけんなっ!
 人の腕食ってんじゃねえええーーー!!!」
 寝ぼけたクーガに二の腕を咬まれているマティアス団長、レストマーの姿があった。


「いやあ、悪い悪い。夢ん中でうまそーなペッカルスの肉が出てさー」
 漸く眼を醒したクーガは、後ろ頭を撫でながら隣に座るレストマーに謝った。仲間達と火を囲む様に座るレストマーは、歯形がしっかりついた二の腕を摩りながら涙目でじろりとクーガを睨む。
「千切れるかと思ったじゃねーか…っ」
「悪かったって。でもまあ、そんな咬み方なら千切れないから安心していいぞ」
「そんな問題じゃねぇ!」
 吠える様に怒るレストマーの腕を星の印で癒しつつ、マリカが二人の会話の合間に呆れ混じりに入ってくる。
「クーガそんな風に思う位、この二の腕自体も美味しそうなんじゃないの? フューリーロアにとっては」
「あー。確かにうまそうって言いそうな奴はいそうだなあ」
「食われてたまるか! つーかマリカ余計な事言うなよっ」
「だって端から見てそう見えるから仕方ないじゃない?」
「ジェイルみたいじゃねーけど、これでも筋肉ついてんだよ。堅くてうまい訳ねーだろ!」
「そ、そういう問題?」
 恐る恐るリウが突っ込むも、レストマーはそういう問題だ、と頷いてしまう。
「ええええ…」
「まあ、次はお互い気をつけたら良いだろう。…ところで」
 間の手を挟んだジェイルが、不意に疑問を漏らした。
「お前はどうして噛まれたんだ?」
「は?」
「お前の寝床は、火を挟んでクーガとは反対側だろう。どうやって行ったんだ?」
「…あ…」
 はた、とマリカとリウが動きを止めた。
 クーガが目を瞬かせ、レストマーに視線をやると、彼は不自然に目を反らす。
 今宵は気温がとても低い。火を焚いてはいても、森の向こう側から吹いてくる風は冷たく、皆火に限界まで近付いて毛布を被り縮こまりながら横になっていた。
 のだが。
「…クーガさん」
 目が据わったリウが、ぴしりとレストマーを指差して言った。
「思う存分咬んじゃってください」
「おしきた」
 というとほぼ同時に、がぶりとクーガは再度レストマーの二の腕を噛んだ。
 レストマーから悲鳴が上がる。
「いて、いってえ! クーガてめぇ手加減してねえだろっ」
「しなくて宜しい! 一人で温もろうとしたあんたが悪いんだからね」
 青筋を立てたマリカが断言するのに、涙目になりつつあるレストマーが声を上げた。
「だ、だって寒かったから仕方ねーだろっ。 ぎゃあ!」
 反対側の腕も噛まれてもがくも、クーガから抜け出せずじたばたする。
「じゃあ噛まれなきゃねー。それが妥当ってモンでしょ?」
「……」
 寒さに若干弱いリウが半ば本気で憤りながら笑って言うのに、ジェイルが溜息をつく。
「悪かったってーぇぇぇッ!」
 まだ明ける気配のない夜空に、レストマーの悲鳴が木霊した。



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誰もが一度は考えるネタなのではないでしょうか(笑















旅(本編後)

「旅行に行こうぜ!」
 唐突が売りのマティアス団長、レストマーはまたいつもの如く口を開いて言った言葉は唐突だった。
 久し振りに四人が集まっての昼食時に放たれた言葉に、食事中の幼馴染三人は動きを止めた。一斉に顔を上げて当に食事を終えた団長を見やる。
「…またいきなり何を言い出すと思ったら」
 呆れた第一声を放ったのは参謀役のリウ。それに同意するのはマリカだ。
「なんであんたはそういつも突然なのよ。もうちょっと前置きしなさいよ前置きを。」
「前置きたって何言えばいいんだよ。それに突然じゃねーし」
「突然じゃないって、前から考えていたのか?」
 隣で珈琲なる最近仕入れた飲み物を飲んでいたジェイルが尋ねると、レストマーは頷く。
「ほら、最近やっと溜めてた仕事も落ち着いてきただろ? そうしたら何処か別の国に行って見たいなって、ずっと思ってたんだ」
「別の国?」
 マリカの問いにこっくりとレストマーが頷く。
「俺達四人だけで、な!」
 その言葉には、三人とも眼を丸くさせた。



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てな感じに何処かに幼馴染達と旅に出たいと言うレストマーの話を書きたいなあと思ったんです…















夢(本編後)

 すらりと引き抜かれた刃はとても綺麗な色を放っている。彼の長年愛用していた剣だ。その鋭い光を見ると、ぞくりと背筋に震えが上る。
 彼は剣の他に、一通りの武器を扱うことが出来た。その中でも剣は別格の技術力だった。協会との戦いの中、彼に剣を持たれたら、自分より技術も能力も上を回っていた仲間達でも苦戦したのではないか…もしかしたら太刀打ち出来なかったかもしれない。
 ……自分は今でも適わないかも知れない。最強と謳われたのは幼馴染の母だが、彼の能力も、あの小さな村の中では宝の持ち腐れと称される程に高かったのだ。
 ゆるりと、腰に刷いた双剣を抜く。応えるように彼も下げていた剣先を上げて、構えた。
 また始まる。
 夢の中だというのに、高揚感が立ち上っていくのが判る。口端が上がるのを止められない。
 早く剣を交えたくて、間合いを取ることもやめて、レストマーは飛び出した。



「…で、其処で夢が覚めたと」
 ジェイルの一言に仏頂面のレストマーが頷いた。朝食兼昼食代わりのパンを口に突っ込みながら、押し流すようにスープを飲む。
「なんで其処まで腹立てられるかなあ…俺だったら戦う前に眼覚めてラッキーとしか思えないんだけど」
「冗談じゃねえ! この前の雪辱を晴らしてやろうと思ってたのに!」
「雪辱って…半年前の夢でディルクと戦って負けたのまだ根に持ってたの」
 呆れ顔でリウと書類を見ていたマリカが顔を上げるのに、当たり前だとレストマーは答えた。
「夢ん中でも現実と同じくらい動けるからな。あれからまた腕が上がったはずだし、今度こそはって思ってたんだ…なのに…っ」
「そう思って、挑戦して負けた数はー?」
「……三回」
「〇勝三敗一分けか」
 容赦ない親友と幼馴染の言葉に、とうとうレストマーは机に突っ伏した。食べかけのサラダにフォークを何度も突き刺していじける。
「だってディルクが強いんだから仕方ねーじゃんか…」



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ほんとはこの後に続くディアドラさんとのやりとりが書きたくて書いてみたんですが、なかなか続かないのでとりあえず保存。
うちのレストマーはどんだけディルクがすきなのか…















赤い川(子供時代)

 川に赤い筋が出来ている。
 ゆるりゆるりと、暗い川の中で鮮やかな赤が流れてきて、レストマーはじっとその色を見つめた。向こうには彼がいる。争っている音はない。
 止めかけた歩みを、ぎこちなく進めた。無意識に足音を殺して、少しずつ進んでいく。次第に聞こえてきたのは水音で。
 薄暗い視界の中に、小さな明りが浮かび上がる。平たい岩の上に乗せられて揺れる灯篭の火が、仄暗い空間を淡く照らしていた。近付けば、川の中に誰かの背が見える。其処から赤い筋が流れていた。
「…ディルク?」
 声をかければ、ひくりとその背が震えた。勢いよく振り返った彼は酷く驚いていて、もしかしたら今まで自分が近付いてきたのに気付かなかったの知れないと、レストマーは思った。
 少年の姿を見て、肩の力を落とした彼が声をかけてくる。
「レストマー? どうした、こんな所に」
「どうしたって、怪我の手当て、してないんだろ。シス姉に行って来いって言われて、持ってきた」
「…シスカが?」
 掲げた治療道具を見て、僅かにディルクが顔を顰める。そして何か思い至ったのか、小さくため息をついた。
「判った。少し待っていてくれ」
 言って、彼は手に持っていたものを水の中に押し込んだ。よく見れば、それはディルクの上着で、彼は服についた血糊を落としていたらしい。ぎゅう、と布を絞れば、其処から赤い雫が滴り落ちていった。
 灯篭のある川岸まで行くと、辺りには脱ぎ捨てていたらしい防具が散らばっていた。どれもこれも血がこびり付いていて、傍には布切れが落ちている。こちらは拭って落とす予定だったらしい。
 その防具を見つめた後、レストマーは顔を上げる。緩慢とした歩みで川から戻るディルクの姿を見つめた。上から下までずぶ濡れの状態の彼は、薄暗くなっている空の所為で見えにくくはなっているものの、至る所に飛び散っていた血の痕はもうなかった。あるのは受けたまま放置して、今開いたのだろう傷から流れるものだけで。
 彼の面持ちも、もう見慣れたいつもの顔だった。顎から滴り落ちる水は透明で、彼は顔を背けずレストマーを見ていて。
 嗚呼、でも。
「レストマー」
 身動きしない少年に首を傾げて、彼は屈みこんでレストマーを覗き込んでいた。
「…大丈夫か?」
 何処までも自分を気にかける兄貴分に、レストマーは少しだけ苛立ちを感じた。むつりと顔を顰めて、言い返す。
「大丈夫じゃないのはディルクの方だ、ろ!」
 片手を振り上げて、傷が開いている二の腕を叩いた。ぎゃ、と悲鳴をあげて彼は腕を押さえる。
「〜〜〜ッ、お前なあ!」
「傷を直接叩いてないし、血にも触れてないぞ?」
「そういう問題か…ッ」
 痛みが治まらないらしい、固まった身体を見て少しばかり気が晴れたレストマーは、荷物を下ろして治療道具を広げ始めた。


 それは一瞬のことだった。
 長かったのか、短かったのか。剣が咬みあい火花が散る命の遣り取りは、相手が隙を見せた事で呆気なく終わる。
 薙いだ銀が、男の首を掻っ切った。刹那の後、血を迸らせて力を失い崩れていく身体、その心臓目掛けて剣を突き刺し、血糊を払い。
 其処で、彼の姿は止まった。肩は呼吸をする度大きく揺れ動いていて、けれどこちらを振り向くことはなく。
 あの時、踏み出すべきだったのかも知れない。けれど然程時を待たずラジム達が駆け込んできて、自分達は追い返された。傍による事すら出来なかった。
 背を押され部屋を出る途中で振り返った時、僅かに見えた彼の顔。多分忘れる事はないだろうとレストマーは思う。
 返り血で赤に染まった身体。無感動に曇る眼。血が額から頬に伝い顎から垂れ落ちていく。
 忘れることは、きっとない。



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「三年前の出会い」や「理由」で触れてる一年前の話。
の、一部。















短剣の意味

 急に黙り込んで、ずかずかと近寄ってきたと思うと、レストマーは徐にマリカに腕を伸ばした。腰の後ろ、矢筒を下げている場所に手を突っ込む。
「お、おいおいレストマー!」
 クーガが慌てて止めようとするが、彼の手は直ぐに離れた。その手に短剣を携えて。
 刃を見て、レストマーの顔が歪む。
「…持ってきてたのか」
「あったり前でしょ。それは私のお守りなの」
「こんな物騒なもの、お守りにするなよ」
「何言ってるの」
 今度はマリカの表情が歪んだ。歪んだというよりは怒っているのだろうか、二人の話に口を挟めないクーガは思った。周りにいる筈のほかの幼馴染を見ると、二人も苦い表情で口を挟めずに見守っているようだ。
「これは、あんたと、ジェイルと、リウを護った短剣よ。
 物騒なものなんかじゃないわ。
 …それに、今日も私を護ってくれた」
 微かに息をつめ、剣を見、そしてゆるりと、レストマーが息を吐く。最後に小さく、使ったのか、と呟いた。是とマリカは頷く。
 あのね、と彼女がレストマーに、否、幼馴染に言った。
「あんた達はあの時のことを、まだ後ろめたい思い出と思っているのかもしれないけど、私はもうそんな風に思ってないわ。
 ただ、あんた達より早かっただけ。それだけじゃないの?
 そうじゃなくても情勢が悪かったんだもの、護り手になるって決めていた以上何時かは誰かを殺してたでしょ。
 それに」
 ぐるりと、三人を眺めて彼女は笑った。彼女自身も含め、血と泥に塗れて酷い姿になっている中で、おかしそうに。
「あんた達もやっと、私と同じ土台に立ったんだから。
 皆もう後戻りは出来ないんだし、そういうのはなし。ね」
 彼女の言葉に、三人が各々視線を絡ませてから、不意に空気が軽くなった。肩の力を落として苦笑う。
「そうだな。やっとマリカに追いついたんだ。その事でもう俺達が気にしなくてもいい、か」
「はー。やっとマリカを先輩って思わなくて良くなったわけかー」
「…とてもいやそうねリウ君」
「とんでもありません先輩!」
 からかうような笑いが溢れる。和やかな、穏やかな、とても異質な雰囲気。
 つい数時間前まで人と戦い、人を屠ってきた人間の纏う空気には見えない。
 かり、と頭をかいて、クーガは思った事を正直に口にした。
「お前らって、不思議だなあ。」
「…そうか?」
 こちらも不思議そうに、レストマーは言葉を返してきた。



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うちのシトロ村はかなり強かです…
国に属していないって、護り手になるってどういう事なんだろう、と考えていたら出て来た話でした。
護ってくれる存在がないから、生きる為に戦う。人の命を貰って生きる、というのがうちのシトロ村の概念かなあと…。
時間的にどの辺りかは決めてません。クーガさんがいらっしゃるので序盤…かと…















ひとつの可能性(本編後)

「よう、久し振り!」
 声が掛けると、ディアドラが驚いて振り向いた。
 背も高くなり穏やかだった顔つきにも男らしさが出てきたと最近言われ続けている、青年姿へと変貌したレストマーが片手を上げて彼女に近付いて行く。
「レストマー…どうして」
「やあっと会えた。お前、俺がこの日だけ昼まで起きられねえの知ってて態と早朝に来てるだろ?
 お前の姿を見かけたって去年聞いて、なんとか起きたんだぜ?」
「あら、じゃあディルクとの逢瀬は蹴ったの?」
 逢瀬ってなんだよ、と彼は笑いながら応える。
「残念ながらディルクは俺の事情を悟ってくれたようで、さっさとやってきてさっさと伸しやがった。それはもう高速の如くな」
「…心臓一突き、かしら」
「……」
 ただ笑っていた顔に、無意識に苦味が帯びた。図星を突き刺されゆらりと視線が彷徨うと、くすり、とディアドラは笑う。
「これじゃあ、まだまだ彼もゆっくり眠っていられないわね」
「はっ。あの大嘘つきの大莫迦野郎がゆっくり眠るなんて考えられないな」
「まだ癖なのね、それ」
 肩を竦めて、彼は不意に振り向いた。木々の隙間から、微かに光の柱が見える。トビラが放つ金の光。その目の前で、レストマーの兄貴分だったディルクが消えていったのはもう数年前になる。
 足元に鎮座する剣一つ残して全てを持っていった彼の命日に、ディアドラは必ず此処を訪れていたらしい。もう数年前のことなのにな、と思うも、そう思う自分でさえ、いまだディルクとは夢で会う。命日と、シトロ村の風習で魂が村に還る日が迫ると眠りが浅くなる。当日は陽が真上に移動するまで起きられず、起きたら起きたで無性に棍に触れたくなって訓練を行い、その後は必ず城に集まっている幼馴染達とゆったりと語らいつつ過ごす。ほぼ毎回、これを繰り返していた。
 いい加減何とかならないかな、とは自分でも思うものの、そう簡単には吹っ切れないことは自分でも承知しているし、少しずつではあるが、この様に無理を通すことは出来る様になってきている。まだ前を向いている、そう思えた。
 けれど。ゆるりと隣の彼女を見る。
 彼女は、前を向いているのだろうか。
「ディアドラ」
「なあに?」
「俺の子供を産む気はないか?」
 やんわりと微笑んでいた顔が固まった。唐突過ぎただろうか、と首をかしげていると、彼女が眉を潜めてぎしぎしと動き出す。頭を抱えて俯く様は、昔何度も見た。
 変わらない姿だ。
「レストマー…貴方ね」
「冗談じゃないぜ?」
 本気で言った。それは伝わったらしい、目を見開いて、ディアドラはレストマーを見た。
 驚愕で揺れる瞳を見返して、レストマーは言う。
「好きだ。俺は、ディアドラと一緒になりたいと思ってる」
「…レストマー」
「その為に、早起きしたんだよ。いつ言えるか気が気じゃなかったからな」
 笑って言うと、彼女の顔が歪んだ。痛ましそうな、辛そうな面持ち。
「判っていて、言うのね、貴方」
「判ってるから言うんだよ」
 手を伸ばして、そっと彼女の髪を梳く。伸びて肩にかかる様になった髪。これは前と変わっていた。
「あのさ、この際だから全部言っちまうけど。
 俺はずっとこうやってディアドラに触れたかったっていうのもあるし、ずっと一緒に居て欲しいって思っていたのもある。
 だけど、それよりも、さ。お前に何か残したいって思ったんだ」
「…残す?」
「何かっていうのは、今でもよく判らないんだけどな」
 恐る恐る頬に触れる。逃げる様子のない彼女に、拒否されてないことにほっとして、レストマーは言葉を続けた。
「お前の傍に居る子供か、子供の持つ俺とお前の血か、生き続ける場所か。お前がいなくなってからなんかいろいろ考えたけど、よくわからねえし、押し付けがましいって思っちまったから結構へこんだ。
 …でも何か、ディアドラとこの世界を繋ぐ何か、そんなものを残していきたいと思った」
 もう片手も上げて、彼女の頬を包む。頬に伝い落ちる雫を覆い隠すように。額を近づけて、至近距離で笑う。
「お前が嫌じゃなきゃ、俺はお前にそういうものを残したいと思ってる。…いつか俺は必ずお前を置いていっちまうから」
 数年前、忽然と姿を消したあの記憶から殆ど何も変わらない彼女を見て、レストマーは訊いた。
「お前にとっては、それは残酷な仕打ちかもと思った。
 でも、何度考えても気持は変わらなかった。俺はディアドラに、帰る場所を残したかった、それだけなんだ。…駄目か?」
「…ッ」
 ゆるりと首を振り、嗚咽を殺して肩を震わせる彼女に、レストマーは腕を伸ばした。ゆっくりと背を抱き締めて、引き寄せる。
 初めて抱き締めた身体、初めて感じた体温。何もかも自分と同じ、けれど何かが違う彼女。
 今一時だけでも忘れられるように、レストマーは腕に力を篭めて抱き締めた。



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某告白を飛び越えてお子さんの話をしちゃった団長@二十歳くらい
この可能性もあるんだよなあ、と設定見ていて思ったんです…でも成長するディアドラさんでも良い。ちょっと大人なディアドラさんを押しまくるレストマーなんか書いてみたいです…。
絵を描くとしたらこちらではなく成長するディアドラさんにするかもしれません。















親愛と恋情の境(本編後)
※リウ主っぽい下ネタらしきものが混ざってますが一応主ディアです…

「そういや、この前起きたらさあ」
 ロブドゥーア城主のレストマーがほろ酔い加減でにこにこと笑いながら、とんでもないことを口にした。
「リウと二人で真っ裸で寝ててさあ」
 ぶぐっ。
 タイミングよく酒を口に含んでいたところにその言葉で、ディアドラは思わず噴出しかける。何とか最小限に抑えたものの、器官に入り咳き込んだ。隣でマリカがタオルを差し出しているのを受け取って口元を押さえつつ、何とか落ち着こうとする。
「ディアドラ、大丈夫か?」
「ご、ごめんなさい。思いがけない話だったものだから…それにしても妙な事になっていたのね。酒盛りでもして盛り上がったの?」
 そう問いかけてみたら、問いかけた本人と参謀以外の全員が何故だか焦り始めた。
「ディアドラ…聞かないほうがいい」
「…どうしてかしら?」
 ジェイルの珍しい声色に嫌な予感がじわりと溢れてくる。一斉に視線が当の本人達に注がれて、二人は顔を見合わせて不思議そうにしていた。
「言ってしまえば、こんな状態だからかしら…」
 マリカが呆れ半分で呟く。その先が聞きたいようで、聞きたくないようで。
「何があったの」
 レストマーに改めて問えば、彼は髪をがしがしとかきむしって、ううんと唸った。
「記憶はねーんだけど、言っちまえばリウと寝ちまっただけなんだけどさ」
「……………」
 至極あっさりと伝えられたその言葉を、普通の意味で捉えたい。けれどそれは恐らく間違っているだろう。周囲がこれだけ二人を白い眼で見ているのだ、マリカはともかく、ジェイルやロベルトが引き気味ということは、もう一方での意味なのだろう。
 じりじりとアルコールの入った胃がきしむのを誤魔化すように姿勢を正すと、何故だか二人もたたずまいを正した。どうやらこの件については周囲にみっちり叱られたらしい。また叱られると思ったのだろうか。しかし現状を見るに、どうして叱られているのは判っていないだろう。
「それで? どうしてそういうことになったのかしら?」
 こほん、と咳をひとつついてから問えば、リウが肩を竦めながらそれが、と口ごもる。
「俺もレストマーも、その日いろいろあって、ほんとどろどろになるくらい飲んじゃってさ…途中から記憶がさっぱり。記憶なくなる前までは、普通に飲んでただけだよ、一応言っとくけど。
 でも、朝になって…あーーー」
 其処まで言ってリウは顔を両手で覆い、重いため息をついた。こそりとマリカが耳打ちしてくる。
「レン・リインがその日起こしに行ったんです」
「…ああ…」
 それは哀れだ。
「慌てふためくどころか状況を理解しようと考え込みすぎてレン・リインが知恵熱出したり、その後一日かけて徹底的にリウと話し合っていたりして大変だったものな」
 呆れ混じりにマリカの続きをロベルトが言う。
「でもその割にはいつもと変わらないから、全然気付かなかったわ」
「いつもと変わらないってか…いつもどおりだし」
 居心地悪そうに身体を縮ませながらレストマーがディアドラの呟きに応える。それにマリカが吼えた。
「いつもどおりって、あんた自分達が何したのかほんとに判ってるの?」
「わかってるつもりだぜ?」
「それでその態度というのが…。開き直ってるならまだ良かったんだがな」
「何だよ、そんなおかしいことか?」
「おかしいというか…あー。何、ふたりともできちゃってたの、…とかあんた達で想像したくないんだけど…そういうことにはならないの?」
 マリカの言葉に、二人は顔を見合わせた。不思議そうに首を傾げて、どういう事だ、と問いかけてくる。
「俺が好きなのはディアドラだぜ?」
「俺もレン・リインが好きだし…。
 レストマーとはそういう好きっていう意味じゃないしなー」
「だよなあ」
「それでよく寝ちゃいましたーなんて事があって顔をあわせられるわね!」
「…そんな気にすることか?」
 つまりは全く気にしちゃ居ない。
 眩暈を起こした気がして、ディアドラは頭を抱えた。
「まあもし女の子達と飲んでそんな事になってたら、俺自身赦せないと思うけど、レストマーだしなー。それに俺が男役だったみたいだしまーいーかなーって」
 あはは、と笑ったリウにジェイルから制裁が入った。ごっとにぶい音が響いて、彼から悲鳴が上がる。
 嗚呼、気絶してしまいたい。ディアドラは思った。
「…レストマー」
「ん?」
「これから半年、彼と二人きりで飲んでは駄目」
「え? …えええええええ! な、なんで!」
「どうしても。私のお願いは聞けない?」
「や、そんな事は…で、でもさあ。しょっちゅうこいつとあちこち行くし、話し込み始めると酒が欲しくなるっていうかさ…」
 ふと、ディアドラがため息をつく。
「判ったわ。…じゃあ別れましょ」
 それには、流石にレストマーは絶句した。
「お願いも聞いてもらえないなら、それだけ私はどうでもいいという訳ね。…それじゃ」
「…ちょっ、ディアドラ、待てって!」
 立ち上がり、部屋から出て行こうとするディアドラの後をレストマーが追い掛けてきた。彼女が扉を開けようとした寸前で追いつき、ドアノブを握った掌へ手を重ねて留めてくる。
「どうでもいいわけないだろ!」
「じゃあ、聞いてくれないのかしら?」
「う、そ、その…」
「…レストマー?」
 何時の間にか自分の背を追い越していた、今は青年というべき恋人をディアドラは見上げた。彼は一瞬たじろいで、それでもすぐに、こくりと頷く。仕草がとても子供らしい。
「その間、自分がどういうことをしたのか、ちゃんと考えておくことね」
「…俺にそれを言うって、どういうことか判ってて言ってんだろ」
「あら、当然じゃなくて?」
 むう、と口を尖らせて拗ねるように、けれど腕は彼女へ伸ばして、ぎゅうと自分の中へと閉じ込めた。



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主ディア ばんざい\ ^O^ /
……………がほもねたまざっていてすいません…表にだせねーこんなの、と思っていたんですが、これが初主ディア文章という悲しい状況なので…(実は)
取り敢えず隅っこに載せておきます。
何が書きたかったのかというと目眩を起こして頭を抑えるディアドラさんと友情と恋情の境界線が薄すぎるリウとレストマーという事です。
単なるネタなのでこれが本筋の話になるのかは決めてません…
この時点でこっそり? リウレンでロベマリでした。ロベルトはマリカの隣にいるんですよ! とどんだけ書きたかったか!
うちの二人は、腕を組みながらレストマーの暴走癖について溜息まじりに愚痴り合う中です。