: 振り返らずに |
: 答え たくさんの遠回りをして たくさん考えて 判ったことはたったひとつ。 迷いはまだ胸にある、それでもどうしようもなく、どうしようもなく、 嗚呼 すきだと、それだけ。 |
: 寄りかかる 一時だけと、誓いながら。 (王子とゲオルグぐらいの体格の差が好きなんです) |
: 再会 二度と離すまいと、するように 瞬きを忘れたかのように、目を見開いてじっと見つめてくる。やつれた面持ちが痛々しい、けれど年月は確実に彼女を育てていた、最後に見たときよりも綺麗になったと、呑気な事を考えていた。 ふらつきながら、彼女は立ち上がる。よろりと身体が覚束無いまま歩き始め、最後には走り出す。今掴まねばまた消えると言わんばかりの必死さで、彼女が手を伸ばしてくるのに応える。 突き飛ばすような勢いを一歩下がって受け止めると、背に回った細い腕がきつく身体をしめつけた。離してしまったあの腕を、今度は離すまいとしているかのように。 一瞬、戸惑って、それからゆるりと手をまわす。包み込むように抱き締めて、ふうと息を吐いた。 やっと、抱き締められたと思った。 「…ぁ」 引き攣った音が聞えてくる。 「あ、ぁあ…、…っ」 「…うん」 声にならない叫びに、シーアは応えた。 「置いていってしまって、ごめん。 …やっと、戻ってこれた」 (4後。4終盤からラプソ前位までは、かきたいです…) |
: ひろがっていく 溢れ行く感情とあかいみずと、 |
: 刃を向ける ぎりん、と金属が弾けあう音が響いて、その後を追うように深紅の棍が床に音を立てて落ちる。がらんと数度跳ねて床に転がり、音が消えると共に沈黙が落ちる。 床に落ちた棍と、床に崩れている少年が一人。 周囲に立ち尽くす人間が幾人か、身動きの取れぬ黒髪の少年と、その少年に剣を向けるエルフの女性、そしてその女性に剣を向ける男達。 首筋に当たる刃にも恐れを見せず、女性は目の前の少年を見続けながら口を開いた。 「剣をおさめてください、危害を加えるつもりはありません」 「冗談言うな」 大柄の男が苦笑いを浮かべながらうめく。 「こちとら軍の天辺の人間に剣を向けられてる、下ろすわけにはいかんだろ。 俺達は戦う駒だ、だが同時にこいつを護る盾でもある」 「それは私も同じです」 淡々を女性が言う。 「私はシーアの剣であり盾でもあります。わたしの命は彼と共にあり、彼と共に消えるもの。だからどんな事をしてでも彼を私は護ります。 …そう」 ぎちりと柄を握りなおして。 「どんな事をしてでも」 「無駄死にする気か」 「…私を倒せるとでも」 落ちたようにその面持ちから抜けていた色が、仄暗い笑みを浮かべると同時に風が足元から吹き上がる。その風が刃となろうとした瞬間、 「ポーラ」 風は、刃に変わることなく吹き抜けていく。床に腰を下ろしたままの少年が、静かに言葉を紡いだ。 「剣を下ろして、ポーラ」 「嫌です」 先程とは打って変わった声色に、周囲は呆気に取られる。その空気に苦笑しながら少年の姿をした者…シーアは顔を上げる。 「…拗ねてる?」 「当たり前です、彼の拳を受けるにしても受身ぐらいはとってください。見っとも無いほどに飛ばされましたよ」 「…」 うんまあ、と苦笑しながら呟こうとし、なに、と震えた声が聞えてくる。 「……受ける、だって? 態と僕の棍を受けたという事か?」 「おい、レイ」 青の外套を纏った青年が窘めようも、レイと呼ばれた少年は聞えていないのか憤りで徐々に顔を険しくさせていく。 「ふざけるな、それが謝罪のつもりか!」 「レイ、落ち着け」 「謝られたってどうしようもないだろう、間に合わなかった、もういないんだ、 この世の何処にも…何処にも! あいつは!」 一頻り叫び声を上げ、肩を上下させて息を吸う。その様を見、シーアは一度俯き、顔をあげ、そして。 「…うん」 僅かに微笑んで、是と答える。そのシーアの姿が癪に障ったか、レイがくしゃりと顔を歪めて口を開きかけ―― 「お静まりください、レイ様」 壮年の声に、言葉を詰まらせた。 一斉に振り返れば、佇んでいたのは軍師の姿。 「マッシュ…」 「少し落ち着かれては如何ですか」 「しかし…!」 「貴方がそう感情を不安定にさせれば、周りの者たちも不安になります。まず落ち着かれてください、方法は幾らでもありますでしょう」 はっとしてレイは視線だけを周囲に向ける。案じる仲間の視線を受けて多少気が静まったのだろう、強張っていた肩に力が抜ける。 「貴方も、こちらが些か軽率な行動をしてしまいましたが、許していただけませんか」 「……いえ。こちらこそ失礼を」 静かで、しかし強く響く声。人の心にするりと響く壮年の言葉に、ようようポーラは剣を下ろした。周囲の者達も安堵の息を漏らしながら剣を鞘に収めていく。 自由を取り戻したレイは暫しの間俯いて沈黙し、そしてどちらにも視線を合わせることなく踵を返す。数歩遠ざかった後足を止めて、多少の躊躇の後、小さく呟いた。 「宿を、とっておく。明日には此処を出てくれ」 「…」 「また顔を見たらどんな事を言うか、判らない。 …二度と目の前に現れるな」 言い捨て、そして振り返ることなく去っていく。その後姿を、二人は沈黙のまま応えることもなく、目を反らすことなく姿が見えなくなるまで見送った。 人気の少なくなった間で、ポーラはシーアに手を貸して立ち上がらせる。 「…大丈夫ですか」 「うん、まだ立てる」 「……嫌われてしまいましたね」 「うん、残念だけど」 困ったように笑って、少しだけ俯いて。 「当然だと思うし、これでいいと思ってる」 「…シーアは嘘吐きですね」 「…だろうか」 そうだろうか、独り言のように呟いたのに、そうですよと応えが返った。 (1。シークの谷ほぼ直後。1では多分ここが一番描きたい) |
: テッド |