テド猫とポラ
: まぐろがすきらしい
「…一緒に食べますか?」
(こく、と頷く)
「今から捌きますから、もう少し待ってくださいね」
(こく、と頷く)

(ポラにも懐いてるんですよ! というネタだった模様…)












流刑前夜
: 流刑
「ちょ、ポーラ!」
 微かに一瞥してすぐに目をそらしてしまった彼女に、ジュエルは慌ててしがみつく。然して驚くこともないままポーラはその腕に行動を止められて、振り返った。
「なにやってんのよ、そんな私服でこそこそを暗闇を歩き回って…っ」
「すいませんジュエル、時間がないのです」
「ないって、なにがだ」
 横で二人を見ていたケネスが僅かに顔をしかめて尋ねてくる。ポーラは自分を見る三人を眺めて、特に時間を置く事もなく口を開いた。
「シーアと共に行く準備です」
 ケネス以外の二人があんぐりと口を開いて声を失った。ケネスは気付いていたのだろう、やはりといった風で微かにため息をついた。
「…ポーラ、わかってんの!? 普通に哨戒するとかそこらの船に乗るんじゃないのよっ」
「判っています、だからこうして準備をしているのです」
「…流刑船、なんだぞ。そうじゃなくても無断で騎士団を離れる事がどういう事が…判ってるか?」
「はい、判っています」
「だが無事船に入れたとしてもその後どうすんだ、海図を今から写す暇なんてないし、羅針盤は持ってけないんだぞ。食料は持ってくにしてもいつまで持つか」
「月日を把握しておけば星と太陽で大体の位置は判ります。あとはどうにかするしかありません」
「どうにかって…お前なあ」
 頭を抱えてタルは唸る。いつもは静かで、一歩引いて先を譲る事が多い彼女だが、頑固な一面もあった。特にシーアの事が絡み、彼が身動きの取れない立場になると必ず彼女が彼の方へつく。騎士団の殆どが二人の事を知ってはいた、それ程互いを想っていたのは判っていたのだが…まさか片方の罪を、共に被ろうなんて事はしないだろうと思っていたのだ。
「シーアではありません」
 彼らの考えを読んだかの様に、ポーラは言葉を紡ぐ。
「シーアが団長を殺すことなど絶対にありません。彼がもし、あの方とどちらかが命を絶たねばならない状況になれば間違いなく己の命を捨てます、そういう人です」
「…ポーラ」
「独りになれば、シーアはきっと全てを諦めてしまいます。
 だから行くのです、あの人に、生きる事を諦めて欲しくないのです」
 行かせてください、とポーラは言った。暫しの沈黙が落ちる。
 ゆるりと、ケネスが口を開いた。
「…どうやって乗り込む」
「グレン騎士隊の方が一時船の見張りを交代してくれます。その時に乗り込みます」
「グレン騎士隊…って…」
 名の通り、グレンが優れた騎士達を集めて編成した彼直属の隊、護りの要、団長や副団長が不在時には率先して上に立つ事を任された優れた能力と存在感を持つ者達の事だ。だが、何故彼らが手助けをしてくれるのか。
「…シーアが、団長に一目置かれていた事は知っていますよね」
「うん、まあ…」
「何れはフィンガーフート家との繋がりを断って、完全に騎士団の一員として受け入れようと団長は考えていたようです。
 伯はシーアをスノウの添付ものとしか考えていませんでしたから、こちらの都合等考えず館の用事などでよく呼び付けていたでしょう」
 こくり、と皆が頷く。それは皆一様に歯痒いものを感じていたのだ、シーアは苦にも思っていない様子でこれが普通とやんわりと笑うだけで、受け入れていたのをよく見ていたから。
「団長は、横槍をいれられるばかりのシーアを案じて、時折合間を縫って自分達の隊に混ぜて訓練をさせていたようです」
「…はっ?」
 タルがつい大きな声を出して、口を掌で覆った。驚くしかなかったのだ、タルに限らず、ジュエルもケネスも。
 話だけを聞けば、なんて優遇されていると普通ならば思うだろう、けれど彼らは知っていた。遅れた訓練に追いつこうと夜遅くまで練習を行い、日頃騎士や見習い達が休んでいる間にも大量の雑務をこなしていた事を。それに館の呼付けが重なって、彼は何時寝ているのだろうかという働き方をしていたのを。その合間を縫ってというのだ。
「騎士隊の方々は判ってくれています。シーアが、決して団長を殺すことなどないのだと。
 …私はそれを証明するために、彼と共に行くのです」
 再度沈黙が落ちた、けれどそれはすぐに破られる、軽く笑う声が聞こえて視線を向ければケネスが俯いて苦笑を浮かべていた。
「…今日全然姿が見えないと思ったら、そんな事をしていたのか」
「正しくは、騎士隊の方々からお話を貰ったのです」
「成程な…」
 そしてケネスは、タルとジュエルに視線を配る。受け取った二人は気付いたように彼と向き合った。
「…で、どうする?」
「手っ取り早くジャンケンでいいんじゃねえ?」
「お前…ジャンケンってな…仮にも自分の命に関わることだぞ」
「かといって時間もねえから話し合う余裕もないだろ。それに譲る気なんか、お前らあるか?」
 タルの言葉にケネスとジュエルは視線を交わして、ケネスは方を竦めて、ジュエルは徐に袖を捲くった。
「…あの、皆さん?」
 突然蚊帳の外にされた事に戸惑いつつ声をかければ、そこで待っていろとケネスが有無を言わさぬ声色で応えるのについポーラはその通りにした。目の前で静かな…しかし熱の篭ったジャンケンがはじまる。小さくジュエルが合図を出す。
「さいしょはグーッ。じゃんけん…しょっ」
 あいこが暫く続いて、何度目か、勝敗は一度で決まった。タルとジュエルが頭を抱えて、ケネスが軽く拳をつくった手を掲げる。
「よし、決まりだ。ポーラ、少しだけ待ってくれ、俺も準備してくる」
「…ケネス?」
「っくしょー。自分で言い出したことだが、やり直してーなあ」
「文句を言うな。タル達は、こっちでラズリルを護りながら情報を集めてくれ、何か手掛かりが掴めるかも知れない。俺やポーラよりは、お前たちの方が聞き出しやすいだろう」
「そうだねえ…二人はどちらかというと、シーア寄りってばればれだしね」
「…まさか」
 顔色を変えたポーラに、ケネスは笑って告げた。
「そのまさかだ、俺も行く。もう少し待ってくれ」
「ケネス、けれど」
「一緒に行かせてくれ」
 強い口調に、ポーラは言葉を失う。
「自分の立場を擁護して後で後悔するのは、俺たちも同じなんだ。それならば俺達が今出来る事をしたい。」
 それにな、と彼は笑って、
「不思議な事に…あいつとなら大丈夫だと、思うんだ。どうにかできる、切り抜けられるってな。
 …団長の眼は相変わらず良い、本当に良い人材を、見つけられる」
「…」
「まあ、もし失敗して命を落とす事になっても、これが天命なんだと思うだろうさ」
「ケネスの場合は特にね。あんまり人の所為にしないじゃない」
「…そうか?」
「そうよ」
 苦笑したケネスに笑って、さっさと準備してきなさい、とばしりと背を叩く。押されて通路の向こうへと走り出すケネスを見送ってから、ジュエルは徐にこちらを振り向いてポーラに抱きついた。
「ジュエル、」
「死んだらだめだよ、ポーラ」
 背に回された腕に力が篭る。
「絶対、絶対皆でまたラズリルで会おうね」
「…ジュエル」
「俺達も、何とか頑張るからな。」
 タルがくしゃくしゃとポーラの髪をかきまわす。タルを見上げ、ジュエルを見、ポーラは、囁くように言った。
「…有難う」

 暗闇の通路を、灯篭もなく進む影がふたつ。港の隅、小さな船が泊められている一角へ足を進めた。物陰に隠れて見張りの様子を見る、ひとりがそろりと覗いて、相手に頷いた。出来るだけ音を出さず、周囲を見回しながら見張りへと近付く。
 見張りが気付いて、注意深く辺りを警戒しながら二人を船へと誘導した。箱の側面を掴んで上に引き上げると、中は空だった。
「狭いけどここで隠れてて。食料は少しだけいれといたから、君たちのも含めて多少持つと思う。でも節約してね。
 オールは隣、最低限必要そうなものも、いれておいたから」
「有難うございます」
「…それはこっちの台詞」
 中に入った二人を覗き込むように、女性騎士は、顔をゆがめながら笑った。
「ごめんね、出来る限り抗議はしたんだけど、下手すると自分たちが首を跳ね飛ばされそうだったから。
 …ラズリルはこれからが大変、だから、私達が死ぬような事は出来ない。此処を離れて彼を助けることも、出来ない。
 よろしく頼むわね」
「はい」
 板が閉じられる、暗闇が彼女たちを包み、騎士の足音が遠ざかった。
「…これから数時間、か」
「辛抱あるのみ、ですね」
「ああ」
 苦笑するケネスに笑って、ポーラは静かに深呼吸をする。
 生みのたゆたう音が、耳を掠める。これから暫くはこの音をずっと聴くことになるのだろうと思った、けれど不快はなかった。
 決めたのだ、と心で呟く。
 皆彼を独りにするのなら、自分だけは彼についていこうと。
 彼を独りにはさせない、と。


 箱から出れば、空は腹立たしいぐらいの晴天。けれどあまり気にならなかった。晴天の日は、とても彼の髪が綺麗に輝くから。
 その髪を風に揺らしながら、彼が振り返る。騎士団にいる時はあまり動くことのなかったが面持ちが驚きで満たされていた。
 良かった、ポーラは思う。きっとそれまでは、諦めきった色を乗せていただろうから。言葉のない彼に、ケネスと視線を交わして悪戯が成功したかの様に笑い合う。
 ポーラは、彼の名を紡いだ。
「シーア」

 何処までも、共に。



(これの前半部分もあるんですが、まだ書いてる最中…。
 ケネスとポーラだったら、無断で騎士団を離れる事の意味を判っていたと思うので、カタリナさんとの話の一部は私的無視ということで…(汗))












女王騎士
: 女王騎士












シーアとテッド
: 雑音
 おかしくなりそうなほどの

(雑音というか、ぐしゃっとなりそうなこえみたいなもの。こころのこえだったり、まわりのこえだったり。
 シーアはそれを笑ってすごして、笑えなくなったら目を閉じて佇む。通り過ぎるのをじっと待つ。逆らわず、流されず、通り過ぎるのを待つタイプ。
 テッドは1はそれを無視して前へ進むタイプ…で4は違うと思ってたのですが、4も同じかもしれない…4テドの方は顔を歪めながら…なのですが。
 うちのふたりはそういうのを常に傍に感じながら生きてきている模様。)
(なんて書いてた板)












傷
: 傷
 常は全てを忘れたかのように微笑む姿。薄情と影で罵る者もいるけれど、そうではないと、自分は知っていた。
 時折…酷く疲れたように、面持ちから表情が抜ける。何処を見ているのか判らない虚ろな瞳が、ぼんやりと辺りを見回している。それは、彼と共にいるエルフの女性も同じで。
 けれど、それだけで。
 彼はきっと、その中に秘めた様々な感情を全て封じ込めてしまうのだろう。外からの言葉を、中に閉じ込めた言葉を受け入れて、そして何事も無かったかのように振舞う。
 …押さえきれず自分が吐き出してしまった感情を、只受け入れてしまったように。
「シーア」
 そうと、柔らかく静寂を打ち破るように彼の名を呼ぶ。階段の踊り場にある長椅子に座り、小さな窓から零れ落ちる月光を受けていた彼が、ゆるりと振り返った時には既に柔らかな笑顔をたたえていた。きっと振り返るまではそこには何の色もうつしてなかったのだろうと、レイは判っていた。
「どうしたの、眠れない?」
「うん、少し」
「…仕方ないけれど、でも出来るだけ休んでいてほしい。
 正直、傷がまた開いたら僕は目も当てられない」
「君がつけた訳じゃないだろう」
 苦笑しながらシーアが苦い笑みを浮かべる。無意識か、深い傷を受けた左の脇腹を隠すように手で押さえる。確かにそちらは自分がつけた傷ではないが。
 彼の隣に腰を下ろす。そして徐に、掌でぺしりと彼の左頬を叩いた。眼を瞬かせてシーアは叩かれた頬を自分の手で包む、そして、小さく苦笑した。
「気にしないでって、言ってるだろう?」
「とりあえず歯は折れても欠けてもいないことにはほっとしてるけどね」
「レイ…」
 君って子は、と溜息混じりに呟くのを、レイは苦笑で返した。
「心配してるって事だよ。特に今回の件で、君は我慢するのが得意だって判ったから…」
「それは、僕も同じなんだけどね」
 ひとつ間を置いて応えてきた言葉に、レイはなんの事かと眉を潜める。シーアはただ柔らかく笑って言った。
「まだ、泣いてない」
「…、」
 彼の為に。
 …そう続くのを、聞かずとも悟った。一瞬にして凍りついた自分の面持ちに、同調するかのようにシーアの笑顔が曇った。
「御免、けれど、話を少しだけ聞いていたから」
「……クレオか、パーン辺り?」
 言葉なく笑いかけてくるのは、ほぼ是と言っていることで。
 レイは、長い溜息を漏らした。
「…まだ、そんな時期じゃないから。それだけなんだよ」
「…レイ」
「シーアだって判っているだろう? この軍は寄せ集めの集団だ、だからそれをひとつにまとめる何かが必要なんだ。それが僕だ。
 僕が崩れれば、全てが崩れる。だからという事も、あるけれど…」
 少しだけ言い澱んで、
「…酷い親友を持ったよ、テッドも」
「レイ」
「僕が、崩したくないんだ。壊されたくないんだ、この繋がりを。こんな僕に力を貸してくれる皆に、僕が出来る事を返したい。
 沢山人が命を落とすのを目の当たりにしてきた。もうすぐ、もうすぐその泥沼のような連鎖が途切れる。この戦争が終れば束の間であっても、仲間が望んでいる平穏が、彼らに与えられる。
 だから、それまではって」

(途切れたらしい…(汗)絵板05「闇の雨」の前の会話です
 あれっ、闇の雨って他の所でもつかったような… 汗)













1前の二人
: あと数センチ
 我に返ってみると肌の色がすごかった…












戒められても
: 屈する事のない、