己を潰す陣へと向う
: 青白く浮かぶ
 一歩足を踏み入れる、踏み締めた闇から、蒼い光が浮かび上がった。道を辿るように弧を描き、円がつくられた。円の中に、様々な模様がなぞられる様に浮かび上がる。
 静かに笑う、そして彼は、ゆるりとその円の中へと歩み始めた。

「迷っているのですか」
 隣に佇む女性が問うてくる。
「見える?」
「はい」
「…ほんとに君には筒抜けだ」
 苦笑しながら俯いて、彼は足元から浮かび上がる光を見つめる。
「迷っている、というよりは、少しだけ怖いのかもしれない」
 すぐには応えは返ってこなかった。ひとつ間をおいて、鈴が鳴るように静かに、声があらわれる。
「あなたの命が削られることにでは、ないのでしょうね」
「…」
「テッドを呼び戻すことに不安を、感じているのですか」
 ゆると瞳が、彼女へ向けられた。青白く浮かぶ部屋の中で、露草の瞳は一層青みを帯びて瞬いていた。
「呼び戻す、か…」
「…シーア」
 視線を外して、そうと瞳を閉じる。
「彼自身は確かにソウルイーターの中に捕らわれていて、死んだとは言い切れないのかもしれない。けれど肉体を失った時点で、「人間」として死んだと言っても過言ではないはずだ。
 死んだはずの人間を生き返らせることは出来ない、その摂理を覆すことがどんなことなのか…考えてしまう…
 …、いや」
 ふるりと頭を振って、
「違う、僕が迷っているのはそんな事ではない。
 僕が迷っているのは、呼び戻す存在が、テッドなのだということだ」
「…どういうことですか」
「やっと、眠れたというのに」
 ぎうと左の掌を硬く握り締めて、彼は言葉を続けた。
「もしかしたら彼にしてみれば、呼び戻すことは苦痛なのかもしれない。三百年生き続けて辿り着いた安息を、僕は奪ってしまうのかもしれない。そもそも本当は…レイのためじゃなくて、僕自身のエゴによって、僕は彼をこちらに呼び戻そうとしているのかもしれない。
 そんな事を、考える。」
「…シーア」
「少なくとも僕は呼び戻されたら、何故と問うてしまうだろう」
 ふ、と溜まっていた息を一気に吐き出して、自嘲の笑みを浮かべた。
「御免。」
「…いいえ」
「少なくともエゴだとは、思うんだ。あの時助けられなかったが故の。
 …だから」
 迷うのだと、声なくとも言葉が伝わってきた。
 沈黙が落ちて、音が消え去る。
「そうまでしても」
 耳鳴りが聞こえてきそうな空間のなかで、流れるように耳を掠めた音。
「彼を呼び戻したいのでしょう。」
 ゆるりと振り返り、そして小さく、頷いた。
 それに彼女は微笑んだ。
「ならば、貴方の心のままに。
 彼の苦情は知ったことではありません、レイにあんな顔をさせるテッドが悪いのです。こちらはシーアの命を削ってまで呼び戻すのですから、大きなお世話とは言われても莫迦と言われる筋合いはないと思います。
 それに」
 ほんの少し、彼女には珍しく可笑しそうに笑って。
「シエラにしてみれば、また命を与えられたならもっと人生を謳歌すべきだと叱責が来ると思います」
 呆気にとられた顔で眼を瞬かせて、次に彼は笑った。
「だと、いいな。」
「はい。…そうですね」
 続けられた言葉になんだろうと視線を向けると、彼女も視線をあわせて。
「戻ってきた時のテッドからのお説教くらいは、甘んじて受けた方が良いでしょうね」
「…」
 一瞬間を空けて、そろと視線を彷徨わせる。息を吐きながら肩を落とすのに、彼女は小さく笑った。

(1テッドはもう一度生きられると知ったら、「やった、ラッキー!」ぐらいの気軽さを持っていてほしいなと思うのですが…考えてるのは落ち込み気味のシーアなんで(苦笑)
4テッドなら確実になんで呼び戻したと怒るだろうなと思います。
 何処までも捏造で趣味な設定なのですが、だからこそなんというか、それを為してしまうシーアには考えて欲しいなと思ったんですが…なんか違う方向にいったよ…)













笑顔で笑ってそして
: さよならとつげる
そしてあなたと笑える私であることを












ぼえー
: えくとぷらずむ
すごい落書きなんですがお気に入りなんで(笑)元ネタ判る方がどんだけいるのか…












涙の雨
: 雨
 振り向いて見せたその面持ちにはかすかな笑みが浮かんでいた。けれど、その身は降り注ぐ雨の中に佇んでいて。
「堪えてる?」
「…みたいだなあ」
 そういって、しかし彼は苦笑を浮かばせた。

「いつかは来ると、思っていたけど。
 …実際目の前に現れると辛いな」
 でも、と彼は言葉を続けて。
「もうそろそろ、行かないとな…」
「…テッド」
「グレミオさんやクレオさん、パーンさん、テオ様にレイ、あの家に関わる人たち、俺によくしてくれた街の皆、…皆とはいわない、けれど、気付いてる人は気付いてるだろ。」
「けれど、何もいわずにいてくれている」
「そうじゃない奴もいる、影の声は、意外に本人に届くものだからな。」
「…」
 ざらざらと雨が降っている、その中で徐に顔を上げて。頬に落ちた雫が顎に伝っていく。
「軍人、か…。あいつにとっては喜ばしい事だと思う。だからこそ余計に辛いな…」
「…」
 そろと、近づく。雨に打たれて頬から落ちていく雫が涙のようで、泣いていなくともきっと心では泣いているのだろうと、彼もまた様々な感情に苛まれて、けれどひとつの決心を心に秘めて、その痛みに泣いているだろうと思った。
 その彼がくすと笑い、ちらとこちらを見て呟く。
「お前のこと、もういえなくなっちまうな」
「え」
「本当にどうしようもない時、人間って笑うしかないんだな。昔のお前のとはちょっと違って終始諦めてるつもりなんかないんだけど、でもどうやっても来るものは、来るしかないって割り切るしかない。
 離したくないものほど離れていくし、離したいものほど離れない。そんなものなんだよな。
 …何処まで行っても、俺から俺自身とこの紋章が離れないように」
「…」
「なあ」
 上向かせていた顔をこちらに向けて、静かな笑みで彼は告げた。
「お前は何処に行きたい?」
「…え」
 眼を瞬かせて、濡れ鼠の状態のテッドを見返す。
「とぼけるのは許さないからな、お前、ここを出る用意はもう出来てるんだろ。なら俺も、お前について行こうかなって」
「え、でも、テッド」
「駄目か?」
「…」
 確信犯、と内心毒づく。自分が否といえないときに彼はそう問い掛けてくるのだ。そして自分自身も否とは言えないと、判っている。
 つと息を吐いて、視線をそろと下に向けた。ずぶ濡れの自分と彼の姿。何処までも悲しみの中に取り残される自分たちの心のようだと不意に思い、すぐに振り切る。
(それはただの感傷だ。)
 痛みに蹲っている自分自身への愚かな憐憫だと叱責するように。彼と自分は違うのだから、今の感情が同じものだと思ってはいけない。
(…けれど、痛いものは、誰でも痛いんだ)
 テッドは長い苦悩の末に、静かに受け入れるようになった。けれど今こうして雨の降る街に佇んでいるように、受け入れるようになった心でも痛みは残る。それすら受け入れて、彼はまた前へ進もうとしているのだ。
「レイには」
「…言うさ。実感は湧かないかもしれないが、頷いてくれるとは、思う」
「…彼なら」
 言葉を切る、促すように沈黙が訪れた。俯かせていた顔を上げて、榛の瞳と視線を交わして。
「留めてくれるよ。レイはテッドの、友達なんだろう?」
 眼を瞬かせて、そして薄く榛の瞳が細められる。
「――そりゃ、心の友だからな?」
 笑いあって、ゆるりと彼の面持ちが垂れ下がった。そのまま自分の肩に彼の頭が凭れる。
「お前がいてくれて良かった」
「僕がいなくても、テッドは大丈夫だと思うけれど」
「…お前は俺を買被りすぎ」
「そうかな」
 だよ、と応えてくる。
「なあ」
 ぽつりと囁くように、彼が自分を呼ぶ。
「暫くだけでもお前と一緒にいても、いいだろ」
 一生のお願いだからさと、懇願するように。













それがたったひとつの綱のように
: きみはぼくににている
虚ろに横たわる夜でも、僕が選んだ今を生きたい、それだけ

(すいません、元ネタがばればれです…)












休む暇なく
: 行けども見えるは、
 光の見えぬ、













あれ?
: 幼い頃?
 あーいや、その、すいません…(脱兎