: 高級。 かた。 かたかた。 かたかたかた。 わずかに目の前のカップが彼の震えが響いて音を立てている。蒼白の表情で、脂汗なのか冷や汗なのか、だらだらと汗を流しながら差し出したカップと睨み(?)あって数十分が既に経過している。 どこまでもその目の前のカップが恐ろしい、と言わんばかりに、カップを前に身体を硬直し縮こまらせている様子に、流石にレイもどう対応すればよいか迷っていた。 (…一応、一番普通に見えるのを選んでもらったんだけどな…) 効果はなかったらしい。家にあるものは、どれも一般人にとっては高価なものであるとは判っていたのだが。 ため息をついて、ちらと隣を見た。隣で恐縮のあまり震えるシーアをよそに、嬉しそうに菓子に手をつけるテッドの姿があった。……そういえば彼ははじめてきたときも、多少一度は躊躇したものの、それからは物おじしなかった人間だった。 (どうしてこうも違うものだろうな) 思いのほかじろじろ見つめていたらしい、不躾な視線に気付いてテッドがレイを見た。 「ん?」 「…いや」 「なんだよ。いいけどさ…。 …シーア?」 ひく、と体が跳ねる。 「ちゃんと飲めよ、グレミオさんが折角淹れてくれたんだからな?」 にこっと笑ったまま紡いだ言葉に、じんわり潤みがかった瞳がテッドを見る。さすがにそこまでいっているとは思っていなかったのか、一瞬きょとりとして、テッドは苦笑を浮かべた。 「シーア…相変わらずだな」 「…カップ、取り替えた方がいいのかな?」 ちょっとだけ晴れた面持ちになったシーアに追い討ちをかけるようにいや、とテッドが答えた。 「いい加減慣れないとつけこまれるからな。こいつにはこれで飲んでもらう」 「……テッドぉ…」 完全に涙目だ。 「慣れろ、じゃなきゃ暫く饅頭禁止だ」 ががーんと豪快な疑似音をたててバックに雷が落ちたようだった。くらくらと目を回している様子のシーアにあまりの容赦ないテッド。 …確かに世話焼きの癖があるなとは思っていたが。 「テッド…せめて少しずつ」 「これでも随分譲歩してるぞ?」 これで容赦しているのか。 容赦しないとしたらどうなるのかと一瞬考え、レイはため息をついてしまった。 (無口設定…) |
: おおおおー! …いやあんま意味はないんですが |
: 重なる 「きっといつか、私は貴方の手を包み込むことができなくなるでしょう」 静かに静かに、ポーラは言葉を紡ぐ。 「私が貴方と共に歩めないというのなら。いつか私が、貴方をおいていってしまうというのなら。必ずいつか、その日が来るのでしょう。 …だからこそ、いいます。 私が歩めるできる限りの時間を、貴方と共に生きていきたいです」 「ポーラ」 「置いていかれるのは、あの一度で十分です」 ごめんと小さく呟いてシーアは俯いた。 |
: ポーラ 「ポーラは、人間が嫌い?」 「…判りません。幸い私が住んでいた村は皆私たちによくしてくれました。けれど恐らく私たちも、そして村の人たちも、間に一線を敷いていたと思います。 その一方でその線を踏み越えてくる人も居ます。けれど、彼らが向けてくるのは嫌悪だけです。」 「…そうか」 「騎士団の方々もそのどちらかが殆どです。ジュエル達はとても良い方々ですが…そうではない人も、います。」 「ポーラは、僕たちとどうしたい?」 「許されるなら、共にありたいと思っています」 「ならきっとポーラは人間が好きなんだよ」 「…そうでしょうか」 「僕は、そう思う。…僕は嬉しいと思う」 「…シーアは」 「?」 「人を、どう思っていますか」 「好きだと、思う。 確かにさっきの先輩たちの様な人も居るけれど…人はそれだけじゃないって、知ってるから。 僕は皆の好意で生かされていると、知っているから」 「好意…」 「君と僕らの境界線の事情は、僕はあまり判らないけれど。 考えてもいいと思う。それは無駄なことではないと思う。すぐにその垣根がなくなることはないのだろうけれど。 ポーラがそう思うなら、なくすための方法を考えてもいいと、思う」 「…有難う」 「僕は、何もしていないけど」 「私が言いたかったのです」 (会話は騎士団の頃なんですが。 特に印象的な出会いがあった訳ではなく、些細な出来事から、少しずつ一歩ずつ、歩み寄ったのが二人のイメージです) |
: 浮かび上がる先に見える光 |
: さらさらと流れる緑の |
: 怒 じりと肌を撫でる風が痛い。 後退りする、ゆるりと振り向く少年の冷たい表情に不様にも身が竦む。 静かに静かに、表に出すことはなく、只管奥へ閉じ込めていた憤りが体中から溢れているようだ。 自分たちが感じているもの、それは間違いなく、威圧というものだった。それも少年が持てるものでも、そこいらの人間がもてるようなものではない、きりきりと自分たちだけに向けられた鋭い刃の様な。 ぽつりと、彼が呟いて、そして。 「肉片ひとつすら残すな」 そう言葉が紡がれたのを境に、意識は消えうせた。 |