失いたくないのに
: 見失う
全ての行動を停止せねばならぬ程、心の平静を保つのは難しく

 無理にでも止まらぬ様に手を引いた方が良いのか、それとも見守るべきなのか。
 恐らくは両方なのだろうとも思う。どうしても動けないだろう時は傍で見守り、立ち上がろうとする時に手を貸してやれば良い。言葉ではそれだけだが、そのタイミングを図るのは難しかった。
 生きる意味を見失ったまま生を保つ事は容易な事ではない。だから見つけられたらいい、そう思う。目の前の人間が失ったものは、二度と戻っては来ないものだから。

 俯いている頬を滑り、頭に手を添える。さらりと流れる髪を撫でて、一、二歩だけ近付いた。俯く面持ちを更に覆い隠す様に目の前に立つ。
 静かに名を紡ぐ。応えは返って来ない。
 急かずに待つ、苛立ちが生まれそうな程の重い沈黙、けれど静かに応えを待ち続けてどれくらいが経っただろうか。
 ゆるりと、動きが見える。錆び付いた金具の様にぎこちない動きで顔を上げて、漸く視線を重ね合わせる。逃げる様に一度反らし、そしてまた、ゆるりと合わせてくる。
 少しだけ力を込めて、寄せれば反する事なく寄って来る。自分の肩に頭を寄せて身体を預けて来る。
 ごめんと、小さく呟いて来る。謝るべきなのは自分の方なのに。
 自分はただ、繋ぐ手から離れて一人で立ってくれれば良い、目の前で崩れて壊れてしまうのだけはしてほしくなかった。
 それだけの
 筈、なのだ。

 浅いものから、深い、静かな呼吸へと変わっていくのを間近で聞く。身体の緊張を緩めて、その背に腕を回す。
 なくしたくない。
 そう、それだけが。












シーア
: 嬉
 不器用な慰め方に、自然と顔が弛んだ

(テッドさんから頂いた饅頭 笑)












海戦
: 海上戦
 どうん、と聞こえた気がする。
 突然の衝撃に受け身が取れず、殆どの者が身体を壁や床に打ち付けた。鼓膜が破られてしまうのではないかと思う程の騒音に耳が麻痺し、目眩が起こる。くらくらとする頭を振って意識を何とか浮上させてから、眼を開けた。
 ……壁の一部に穴が空いている。
 周囲に飛んだ木片は周囲の人間達に襲い掛かっていた。腕や身体に突き刺さり、呻いている者が数名、下敷きになって倒れている者が数名。見渡して、一人の名を呼ぶ。
「カレル、生きてるか?」
 耳鳴りが止まぬまま声を張り上げると、生きていると返って来る。木片に下敷きになった人間がひとり、押しつぶしている木片ごと起き上がった。
「畜生、反則だぜありゃ。あんな小さい船でここまで砲を飛ばせるのかよッ」
「御託は良い、被害状況をまとめろ」
「うっせえ、判ってる。」
 荒い言葉遣いを気にもせず、彼は連絡管へと進む。
「ブリッジ、聞こえるか」
『…状況は?』
 掠れた声、眉を寄せながら、彼は言葉を続ける。
「まともに当たった、右舷の砲台が二機使用不能、負傷者も数名、まだ詳しい事は判っていないが救護班をこちらに呼べるか」
『行かせる。 …何機撃てる?』
「おい、テッド」
 呼ばれて振り向くと、カレルが現状を知らせる。周囲を一度見渡してから、彼は連絡管に向かう。
「十だ」
『…右舷の船に三機、左舷に七機配置、右舷は威嚇で引き離してから左舷を白兵に持ち込ませて叩く。砲手はテッドのままで。』
「いいのか?」
『任せる』
「…判った」
「右舷三機、左舷七機に配置変更、怪我人は邪魔にならない様隅に避けとけ!
 あの生意気な船端に生意気なガキの砲をぶち込むぞ!」
 カレルが大声で水夫達に伝える。ガキ、というのは紛れもなくテッドの事で、少々むっとしたが、それは今声を上げる事ではない。彼は部屋の中にひとつだけある水晶のような球に触れて、意識を集中させる。じわりと球の中に水色が浮かび、光となって滲み出す。
「紋章砲準備、右舷は威嚇だ、出来るだけ引き離す。
 左舷は白兵戦に持ち込むまで徹底的に打ち込む。
 カレル、遅れるなよ」
「言われなくても判ってる、お前こそさっさと魔法を溜めとけよッ」
「してるさ」
 近付いて来る船、向うは予想だにしていなかったのか、慌てている様子が伺える。
 あいつが逃げる訳がない、それは判っている。けれど無茶な人間ではない、全てを見て、考え、行動している。強行気味な行動もできると思ったからしているのだ。
 自分だけの力ではなく、この船に乗っている皆の力を見て。
 信頼されている。
 重い荷だ、ひとつ間違えばこちらが負ける。けれど負ける訳にはいかないのだ、こんな所で。
「右舷、準備完了」
「左舷撃てます。いつでも!」
 すう、と息を吸い込む。球を握りしめ、ありったけの力を込めて、叫ぶ。
「右舷、左舷、紋章砲用意。
 …撃てッ!」
 球を握りしめた掌に軽い痺れが来ると同時に、砲が一斉に発射された。

(うちのテッドの海戦事情…すいません趣味だなオイ)












ポーラとシーア
: 与えられなかったもの
抱き締めて、伝える

「…ポーラ」
「はい」
「つかれて、みえる?」
「はい、みえます」
「…そっか」
「はい。
 ……シーア」
「ん」
「お茶を頂きにいきましょうか」
「…。
 大丈夫、だろうか…昨日、なんだか不機嫌だったから…用もないのに来るなと言われてしまいそうだ」
「用ならあります。お茶を頂きに行くのです」
「…(苦笑)」
「お饅頭を彼の分も買って、行きましょう」
「…うん。そうだね」

(うちのシーアとポーラはこんなもんだ…)












心から思う
: 想
自分がどうなったとしても、あなたがどうなったとしても

これだけは真実












ポーラ
: 風の行く先
何もなくとも、何があっても

ただ、あなたの傍に












1前
: 穏
自分と共にいるその一時、それだけでも。

穏やかであってくれれば良い

(1前に出逢うシーアはちょっとへこんでたりするので。
 ああやっぱり、どんな人間でもそんな時期はあるんだなって思うテッドがいたりする…だったら150年前に自分の手を引いて歩いてくれた様に、今は自分が彼の手を引いてやろうと。4前提1前で書きたいテッドとシーアは、そんな関係。)