: 「そばにいてやれよ」 彼から発せられた言葉に、彼女は顔を向けた。視線があった先の彼は、穏やかに笑っている。 「お節介というか、余計なお世話だってことは承知してるけどな」 流れるように彼女から視線を外し前を見るのにつられ、彼女も視線を前方へと向ける。広い草原が広がる平地に、ぽつりと二つの違う色が混ざっているのが見て取れる。一方は赤い衣を纏う少年に、もう片方は黒と赤の衣を纏っている、少年とも青年とも言いがたい形容の人間。頭に緑色のバンダナを巻いた少年に手を引かれ、黒の衣を纏った少年はされるがままになっている。あの分だと何をするのだとも訊いていないだろう、昔の癖が抜けてないのが見えて、苦笑を浮かべながらテッドは言葉を続けた。 「今日の遠出はさ、レイがシーアの様子を察したからなんだ」 「…判りやすかったですか?」 「いや、全然。俺は気付いたけど、それはあいつの癖を知ってたからだし。…レイはそういうのに敏いんだ。人の顔色ってより、人の心の流れを感じるのが上手い。」 だから自分の中にもずかずか入り込まれたのだと思い出し、少々苦く思いつつ、本来の目的を告げるために、言葉をひとつ置いた。彼女に、ちゃんと伝えるために。 おせっかいだと判っていても、どうやら、この関係は二人とも変わっていなかったようなので、突っ込んでみることにしたのだ。 「今はどうだか、知らないけど。昔はお前や騎士団のシーアの仲間は、あいつが悩み事があったりして考え込んでいたりすると、その時間をつくるようにあいつの周りのことをしてやってただろ。重要で即決が必要なものはきっぱり決めることが出来たし、そんなのも有りなのかな、と思ったけど。」 そうと目を彼女に向ける、エルフの血を持つ彼女は黄の髪を風に遊ばせながら視線は只管に前に向けられていたが、意識はこちらに向けていた。 …気付いているかもしれない、やっぱりお節介だっただろうかと思うが、敢えて彼は言葉を続けた。 「ただ悩む時間が長い様だったら、傍にいてやった方がいい。シーアは何も言わないし、お前もそれを知っているだろうけど、随分と悩んでいる時は思考の泥沼にはまっている時が多いから」 視線がこちらに移ったのを感じる、自分も目を彼女に移せば、彼女は何かを悟った様な面持ちをしていた。 「頭がこんがらがってどうしようもなくなってるから、言葉で整理させてやるのがいいんだよ、そういう時は」 「…だからテッドはシーアの隣にいたのですね」 「一人で落ち着いて考えさせたいって気持ちは、わかるんだけどな。シーアのタイプは余計なことを余計に気にする所もあるからなあ。…昔それを一度だけ訊いて、こいつは莫迦だと気付いてから悩んでいるなと判ると、ほっとけなくてな…」 「…苦労しますね」 「たまに言われる」 肺から息を吐きつつ、諦め気味に笑う。これはもうどうしようもなく治らないだろうと自分でも自覚しているが故に。 「シーアのこと、…テッドはよく知っていますね」 突然の言葉に俯かせていた面持ちを上げる。彼女は自分から視線を逸らして、彼らにも向けず、遠くの空を見やっていた。 あれ、とテッドは目を瞬かせる。 気付いて、なかった? 「随分と一緒にいた筈なのに。わたしはまだ彼をよく判りません」 気付いてなかったというよりも、どうやら彼女も思案していた所だったようだ。声色を少し変えて彼女が言う。…少しだけ拗ねた様な口調。今でもあまり他人に感情を見せない彼女が見せる一面、それは一応なりに自分も心を許されているということらしく。 くすぐったくて困った様に笑いながら、そしてほんの少し戸惑いながらテッドは彼女に答えた。 「そりゃ、相手がシーアだからな。 ポーラはシーアの昔を知っている、俺は知らなかった。だから踏み込めた、それだけだよ」 「…どういうことですか?」 眉をひそめて問う彼女に、テッドは肩を竦める。 「あいつが昔どんな風に制約されて生きてきたのか、押し付けられていたのかなんて知らなかったから、だから一般的な常識と呼ばれるものを押し付けることが出来たってだけだ。 お前が仕方ない、で終って見守ってしまうところを、俺は違うだろって言えただけなんだよ」 全部が全部言えたわけじゃないけど。 そう呟きながら、心持ち顔を俯かせてテッドは肩を落とした。 「ポーラも、結構頑張ってるだろ。それは今のあいつをみて判る。だから、余計なお世話だってことは承知してるんだけど、この辺はいまだ踏み込めてなかったみたいだから、言いたかった。ごめんな」 「…いいえ。わたしこそ」 さわさわと風がなびく。青々とした草木が陽の光を受けながら色鮮やかに揺れて音を立てる。その中に紛れて、2人の少年が笑っている。 やっと笑ったと、安堵する。 「テッド」 「ん」 呼ばれ、顔を上げる。ポーラは笑っていた。 「ありがとう。あなたも、無理はしないでくださいね」 「…ポーラ?」 「あなたも、シーアと似ているところがありますから。あなたの背負っているものを知っているから、なんとも言えませんし、どんなことがあっても私はシーアについて行きますし。 …けれどあなたも、せめて私たちがまだ傍にいるときは、一人で抱え込まないでください。シーアとは異なる意味ですが、それでも。 それでも、あなたはわたしの仲間です」 さわさわと、風が詠う。草木を揺らし、雲を流し、緑と蒼の狭間を通り過ぎながら。 目の前の女性を見つめた。自分とは異なる血を持つ女性、自分の血よりも長く生を保つ種ではあったけれど、本来ならばこの時代まで生きることは叶わないはずの人。 それは酷く不幸なことだ、テッドは思う。けれど、 彼女と再会できたことは嬉しいと、思う。 「…ありがとな」 笑って、テッドは答えた。 (ポーラとテッドという組み合わせは非常に珍しいですが、好きかも知れないと思った…ここから脳内で二人のやり取りが少しずつ増えて来ました) |
: 旅 (ごとごととゆられている) テッド:……… (ごとごととゆられている) シーア:……… (ごとごとと馬車に乗ってゆられている) テッド:…やられた。 シーア:見失った? テッド:あ〜〜…。お前は? シーア:うん。テッドと同じ瞬間に。 テッド:あーーーーもーー。なんでこんなにソウルイーターを扱うのがうまいんだよあいつはっ。莫迦レイ、莫迦マクドールっ、グレミオさんの役立たずーーーーーーーっ!(叫) シーア:次の町で情報収集だね…(とおいめ (テッドとシーア、旅してたらこんな感じ) |
: 惑う瞳と、繋ぎ止める腕 実は幻水…パラレル設定 |
: 癒えない傷 眩暈と、軽い呼吸困難、からからに乾いた喉からひうひうと掠れ声が流れている。 …いやな動悸が身体の中で鳴っている。 気持ちが悪くて、けれど胃に詰まっているものを吐き出したいという気持ち悪さではなくて、声を、張り上げたい程の。 嗚呼、嫌だ。 気持ちが悪くて叫びそうになる。周りに当り散らして、入ってくるなと遠ざけたくなる。 …けれど自分の手は、目の前の人間に縋り付いていた。 「…すまない」 謝罪の言葉が聞こえて、感情のないままにただ首を横に振った。相手に何の非もないことは承知している。自分の事を思っての行動だったことは判っている。自分の心がついていけなかっただけだ、いつもいつも、傍で静観していてくれたからそれに甘えて、だから。 だから、そのこころに触れられたらまだ傷が開いて血が溢れてくるなんて、知らなかった。 「ごめん」 再度謝って来る言葉に、声を返すことが出来ない。頭の中をかき回されて、気色の悪い感情が身体の中に広がっている。今口を開いたらどんな言葉が吐き出されてしまうのかが自分でも計りかねた。 その沈黙が、相手にどう伝わってしまったのか。不意に腕を掴む彼の手に力が篭り、そのまま強く引き寄せられた。とっさの反応で反対方向に力を入れて逃げようとするも、強い抵抗にあっさりと負けた。腕を背に回され、彼の身体に縛られる。 放せと訴えるが、否と答えられる。強く強く篭められる自分を戒める腕の力に、苦しくなる。 その腕の力が、彼の身体から伝わる温かさがとても気持悪かった。 それに縋ってしまいそうになる自分に吐き気を覚えた。 そんなものはいらないのだと心が喚く。 そんなものを与えられるくらいなら、 壊してくれる方がいいと、願った。 |
: 舞 二人が闘ったら舞の様になるんじゃないかなっていう願望(笑 |
: 闇の雨 ざらざら。 雨が、降っている。大粒の雫を涙の様に落とす天の下で。 「…それでも」 声が。 「それでも、僕は…」 大地を叩きつけるように雨が降っている。いつもならば湖の水のたゆたう音、縄張りをこの湖周辺にしている鳥たちの鳴き声、陸と此処を繋ぐ商売をする人間たちのざわめきで溢れ返っているはずの小さな島は、雨の音で全て覆われていた。 ざらざらと雨が降っている。 大量の雨が降る中を、雨除けのひとつもせずにひとり港の桟橋に座り込んでいた。頭の天辺から額に流れ、頬を伝い顎からぱたぱたと雫が落ちていくのも、いや、既に全身がずぶ濡れになっているのにも苦にせず、ただただ、雨に叩かれ騒ぐ湖を、見つめていた。 「…傷に障りますよ」 騒がしい雨の中、はっきりと声が落ちる。いつの間にか座り込んでいる少年の背後に、金の長い髪と、長い耳先を持った女性が佇んでいた。彼は驚くことはなく、そして振り向くこともなく、ぼんやりとした声色で相槌を打った。それにいつもならば、女性からはため息が漏れる筈だった。 徐に背を向けて、彼女もまた座り込んだ。止む気配のない雨の中にある桟橋の上で背中あわせにふたりだけ、一人は湖を、そしてひとりはその反対側の……恐らく数名はこちらの様子を何処かで見ているだろう、巨大な石造りの城を向いて。 ざらざらと、雨が降る中を、二人。 「…ごめん」 唐突に少年が謝罪の言葉を紡いで、女性は一言、はいと返す。 「ごめん」 「はい」 「…悔しい」 「わたしもです、シーア」 「……悔しいよ、情けなくって、どうしようもない」 微かに声が震えているように聞こえた、それが泣いているからなのか、それでもいままで雨に打たれて凍えてしまっているのか判断は出来なかった。彼女は僅かに声を抑え、けれど非難の色は含ませずに彼を呼んだ。 「シーア…」 「ごめん。仕方ない事だってわかってる」 「貴方もわたしも、できる限りのことはしました」 「うん。そうだ、わかってる。でも… …それでも」 ざらざらと雨が降っている。まるで誰かが泣いているかの様に、激しい雨が降っている。 その雨に打たれている者が二人。 「それでも、僕は…」 泣けないだれかの代わりに、大粒の雫を涙の様に落とす天の下で。 「テッドを、助けたかった…」 雨に、打たれてないていた。 (1、シークの谷以降の二人) |
: 2主 真の紋章持ちの天魁星の中でも恐らく一番タフな人間。(一番はトーマスだとおもうんですけど) |